アーカイブ: 2019年12月

日々是カツァリス2019:12月13日 茅ヶ崎公演 何年ぶりかの神公演!

まさか、まさか、平日の茅ヶ崎公演で、こんな神公演に遭遇するとは夢にも思わなかったです。
そして、カツァリスさん、最近ちょっと悪口書き気味で申し訳ありませんでした。いや、本当にこの日は素晴らしかった。何年ぶりだろうか、素直に感動できたのは・・・。
まして、先月の頭には、あの忌まわしき「上海の悪夢」を経験している身としては、正直もうそんなに期待もしていなかったです・・・。

この日は最初の即興演奏からすでに違いましたな。音がとにかく素晴らしく、いつもより集中力がある感じ。そのままベト本プロに入っても変わらず、楽譜を見ながらの演奏も気になることなく音楽に没頭させてくれます。テンペストの弱音の美しさといったら・・・。茅ヶ崎のホールも改装されたらしく、以前より響きがストレートに客席に伝わってくる感じ。
前半終了で早くも神公演の予感。


そして後半のヴァイオリン協奏曲の3楽章が素晴らしい。これは今週発売された6枚組CDでも真っ先に聞いて「これはイイ!」と思った、その期待通りの演奏。CDでは「春」「クロイツェル」も良かったし、カツァリスに弾くヴァイオリン曲のトランスクリプションにハズレなしかも。実は、同じ話が出ていたらしく、終演後本人に話すと、コンサートで弾くのもまんざらではなさそう!
そして交響曲7番2楽章と9番3楽章という、ちょっとオネムになりそうな曲も、この日の集中力極まった演奏でまったく眠くならず、ベト交の世界に引きずり込んでくれました。
最後は、この日当初予定されていた謝肉祭を直前で変更し、ショパンの英雄ポロネーズ、そしてラフマニノフメドレーと圧巻。英雄ポロネーズは鹿児島で弾いたときよりも、もちろん上海で弾いたときよりももう完全に手の内に入っている感じで、全盛期を彷彿とさせる演奏。最後のラフマニノフを本人はアンコールのつもりで弾いたが、本プロとしてプログラムには載っていたのはご愛嬌。
本当に感覚としては5-6年ぶり、ひとり皇帝やったとき以来?、プログラム全体の完成度からいえば、2000年代初頭以来10数年ぶりの感動を味わいました。

さて、なぜ、正直もうだめだなと思わせながらも、神公演で復活したのかと考えましたが・・・

1.疲れが取れた
やっぱり、今年は忙しすぎたかも。年初はずっとフレンチプロ。そのときから、モニューシュコの依頼が入って、レコーディングと演奏会。夏以降は平行して、ショパンの弟子プロをやりつつ、日本公演用にバラ1、スケ2、英プロなど準備し、さらにベートーヴェン6枚組CDのレコーディング。秋は中国でベヒシュタインツアーに引っ張りまわされ、そして日本公演では、デュオで第九。この第九が終わってかなり楽になったのでは?

2.ピアノ
カツァリスが日本で弾くのはかならずYAMAHAのCF-Xですが、今回は調律もカツァリスお気に入りの曽我さんらしく、文句の無い状態に。曽我さんNYから帰ってきてくれてありがとう! これからもよろしくお願いします。

3.CDとコンサートのタイミング
個人的やっぱりこれじゃないかと思うのは、今回のメインプロであるベートーヴェンを集中的にレコーディングしてかなり練りに練った段階でコンサートで披露できたということが大きいのでは。思うに、ここ数年、1年に複数回来日するものの、そのときのプログラムはなんだか思いつきのプログラムが並んでて、以前のようにPIANO21にレコーディングした新譜の曲を中心にして組んだプログラムというのはありませんでした。さらにCDにある曲目でもPIANO21はかなり以前に録音したものが突然発売されることもあり、熟成度が薄れてしまってコンサートで披露ということもあったのかと。今回はそのタイミングがベストだったと思います。これはファンの間では有名な話ですが、かつてシューマンの幻想曲をやったときに、準備不足の演奏をしたとして、当時のマネジメントであった石井宏氏に思い切り叱られたこともありました(笑)。 実は最近、そのときのように消化不良の演奏が増えていたことも確かで、これは彼があれもこれもと手を出して、いろんな曲をやりたいというのが一因だったと思います。(もちろん彼はそれで聴衆を楽しませたいと思っているのですが)

4.単純に曲、編曲が良い
やはり、知らないマイナーな曲であっても、ベートーヴェン作曲ですから、ポーランドの駅の名前になってます作曲家やショパンの弟子っこ曲よりも魅力的です。弟子っこ曲ずらずら並べられて、楽譜を見ながら淡々と弾かれても、やっぱり音楽的に没入度合いが少ないですよね。こういうマイナーな曲はCDならいいですが、コンサートでは正直キツイです。今回はベト曲で、トランスクリプションも編曲がいいですね。やっぱり編曲は自分でやらないほうが客観的でいいのでは?(笑)

そういうわけで、もう正直、ここまで自分の中で「手のひらクルックル」するとは思いませんでしたが、まだまだカツァリスは現役で活躍してくれることを確信しました。そして、また来年も複数回来日してこの素晴らしいベートーヴェンプロをやってくれるということなので、また追っかけしたいと思います。

最後に少し苦言を。

1.冒頭の即興演奏イラネ。今回のようにコンセプトがはっきりしている(ベートーヴェンの最初の作品に始まり最後の作品で終わる)のだから、最初に即興演奏やったら雰囲気壊れるのでは? ましてクリスマスやら夕焼け小焼けなんて弾く必要ないです。即興演奏は、アンコールでお願いしやす。

2.会う日本人みんなに「ZOZOの前澤さんを知ってるか? 紹介してくれ」というのはやめましょう。月に一緒に行きたいのはともかく秘書に作った曲を送ってもそりゃリアクションないでしょ。本当につきに行きたいならまずダイエットしてください。行くのが決まったらダイエットするって、誰が信じるかよ! 前澤さんと月に一緒に行くより、ゴーリキ狙いのほうがまだワンチャンあるで。

日々是カツァリス2019:12月11日 カツァリス&広瀬悦子デュオ

もはや記憶の彼方に消し去ってしまった悪夢の上海遠征から1ヶ月少ししかたってない中での今年3回目の来日公演。
もともとこの12月は、このデュオが中心の予定だったのですが、来年のベートーヴェンイヤーの先取りプログラムを浜松でやるかと思えば、昨年台風でキャンセルになった豊田や茅ヶ崎では今年のフレンチプロの置き土産のように謝肉祭までやる始末。
ちょっと、いくらなんでもとっちらかりすぎてるんじゃないの?と思いつつ、まあ二人で弾くんだし、大丈夫かなと参戦。

場所は聖地、浜離宮朝日ホール。
客入り、いつものソロよりも明らかに少ない・・・。

プログラムは、来年のボンでのベートーヴェンフェスト2020での演奏予定曲と同じ。

ベートーヴェン:合唱幻想曲(ハンスフォンビューロー編曲)
ベートーヴェン:第九(リスト編曲) いずれも2台ピアノ用の編曲
前半の合唱幻想曲は広瀬悦ちゃんが1st、カツァリス2nd、後半の第九が逆になりました。

さて、合唱幻想曲は省略するとして、第九なのですが・・・。

カツァリスといえば、リスト編のベートーヴェン交響曲全集を80年代から90年代にかけて完成させ、ピアノレコード史上の偉大な金字塔を打ちたてたわけですが、当時の特に日本の批評家の酷評にも負けずやりきったその意義は、単に珍しいだけではなく、目を見張る超絶技巧はもちろん、完成した交響曲の演奏がオケ演奏には真似できない魅力に溢れていたからでした。80年代のベートーヴェン交響曲の演奏といえば、まだまだ巨匠が幅を利かせていて、フルオーケストラ編成で重厚にやるのが当たり前だった時代に、オケでは考えられないスピードで疾走感を持って作り出す新しいベト交の魅力にやられたのです。テンポだけで語るわけではありませんが、ベト交は、その時代時代において新しい時代を切り開こうとする演奏家たちが覚悟を持ってのぞみ、その結果、それからしばらくの演奏トレンドを決めてしまうような試金石となるものです。ご存知の通り、その重厚な巨匠演奏から、古楽器陣営のブリュッヘン、ガーディナーにはじまり、それを現代オケの演奏に取り入れ始め、ジンマン、ノリントンの演奏が人気に、そしてベーレンライター改訂版の使用が一気に広がって以降、真打ラトルがウィーンフィルと2000年に現代版ベト交演奏を確立したといってもいいかもしれません。その後、サロネン、パーヴォ・ヤルヴィなどもそれぞれの代名詞ともいえる演奏はベトになっています。新しいところでは、ベルリンフィルの新シェフとなった、キリル・ペトレンコがこの夏披露した第九など、もはや以前のベルリンフィルには戻らないという訣別宣言ともとれる演奏でしたし、今年出したネルソンスとウィーンフィルの演奏もそれなりの意欲が感じられるものでした。

カツァリスの演奏の話しに戻しますと、多重録音かと疑われたくらいのかつての「ひとり第九」の演奏は、オケ演奏と比べて物足りないなどと思うことなく、完全に曲の素晴らしさを表現できていたわけで、つまりなにが言いたいかというと、
「一人で演奏して、新しい時代を切り開いたことがある人が、いまさら二人で演奏する意味はあるのか」
ということです。

もちろん、1人か2人という人数だけで議論しているわけではありませんが、2人で演奏するならば、1人ではできなかった何か新しいことを見つけられなければ、いまさらやる意味はありません。
ではそれがあったかといえば、そこまで大げさではないものの、まあ、第4楽章の1人ではどうにもできないような苦しい箇所はさすがに2人になったことで楽にはなっています。さらに、ピッコロが大活躍するところ(盛り上がって途切れたあとマーチで再開するところ)では、カツァリス得意の高音コロコロ演奏で美音が際立ち、そこははっきりと2人で弾いたからこそ、という部分もありました。
しかし、全体的に言えば、特に第1・2楽章は、特に2人で弾くことによる特筆すべき効果がある部分はすくなく、実際に一方が弾いてるうちは一方が休むことが多く、それはリストの編曲がそうなっているから仕方ありませんが、そうすると二人の音色、音の大きさの違いが埋め切れないような印象が残りました。これは普段からずっと一緒に活動しているようなデュオでないとできないことかもしれません。

では、当日の演奏がつまらなかったかといえば、決してそうではなく、第九を丸ごとピアノで楽しめたという充実感はあります。特に広瀬さんはやはり上手く技術も文句ないし、どちらかといえば終始カツァリスをリードしてくれていましたし、カツァリスも大忙しの中、それに応えるだけの着実な演奏はしてくれましたが・・・。

さて、この二人の第九ですが、もうレコーディングも済ませているそうなので、来年いつかのタイミングで発売されるのでしょう。そして、本番は来年9月のボンのベートーヴェンフェストですが、間違いなく、今年のヨーロッパ音楽界のハイライトは、このフェストで行われるクルレンツィスのベートーヴェンチクルスなので、それに埋もれないようにそれまでにもっと二人で熟成させてほしいなと思います。(この後日本以外でやる機会はあるんだろうか?)
いずれにしても、今回はある意味、広瀬さんに感謝ですし、来年もよろしくお守をお願いしたいです。

ちなみに、クルレンツィスとムジカエテルナは4月13-14日にサントリーホールでベートーヴェン第7と第9を演奏しに再来日してくれます。私は、何があっても絶対に行きます。時代が変わるベト交が演奏される予感がします。

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