日々是カツァリス2019:12月11日 カツァリス&広瀬悦子デュオ

もはや記憶の彼方に消し去ってしまった悪夢の上海遠征から1ヶ月少ししかたってない中での今年3回目の来日公演。
もともとこの12月は、このデュオが中心の予定だったのですが、来年のベートーヴェンイヤーの先取りプログラムを浜松でやるかと思えば、昨年台風でキャンセルになった豊田や茅ヶ崎では今年のフレンチプロの置き土産のように謝肉祭までやる始末。
ちょっと、いくらなんでもとっちらかりすぎてるんじゃないの?と思いつつ、まあ二人で弾くんだし、大丈夫かなと参戦。

場所は聖地、浜離宮朝日ホール。
客入り、いつものソロよりも明らかに少ない・・・。

プログラムは、来年のボンでのベートーヴェンフェスト2020での演奏予定曲と同じ。

ベートーヴェン:合唱幻想曲(ハンスフォンビューロー編曲)
ベートーヴェン:第九(リスト編曲) いずれも2台ピアノ用の編曲
前半の合唱幻想曲は広瀬悦ちゃんが1st、カツァリス2nd、後半の第九が逆になりました。

さて、合唱幻想曲は省略するとして、第九なのですが・・・。

カツァリスといえば、リスト編のベートーヴェン交響曲全集を80年代から90年代にかけて完成させ、ピアノレコード史上の偉大な金字塔を打ちたてたわけですが、当時の特に日本の批評家の酷評にも負けずやりきったその意義は、単に珍しいだけではなく、目を見張る超絶技巧はもちろん、完成した交響曲の演奏がオケ演奏には真似できない魅力に溢れていたからでした。80年代のベートーヴェン交響曲の演奏といえば、まだまだ巨匠が幅を利かせていて、フルオーケストラ編成で重厚にやるのが当たり前だった時代に、オケでは考えられないスピードで疾走感を持って作り出す新しいベト交の魅力にやられたのです。テンポだけで語るわけではありませんが、ベト交は、その時代時代において新しい時代を切り開こうとする演奏家たちが覚悟を持ってのぞみ、その結果、それからしばらくの演奏トレンドを決めてしまうような試金石となるものです。ご存知の通り、その重厚な巨匠演奏から、古楽器陣営のブリュッヘン、ガーディナーにはじまり、それを現代オケの演奏に取り入れ始め、ジンマン、ノリントンの演奏が人気に、そしてベーレンライター改訂版の使用が一気に広がって以降、真打ラトルがウィーンフィルと2000年に現代版ベト交演奏を確立したといってもいいかもしれません。その後、サロネン、パーヴォ・ヤルヴィなどもそれぞれの代名詞ともいえる演奏はベトになっています。新しいところでは、ベルリンフィルの新シェフとなった、キリル・ペトレンコがこの夏披露した第九など、もはや以前のベルリンフィルには戻らないという訣別宣言ともとれる演奏でしたし、今年出したネルソンスとウィーンフィルの演奏もそれなりの意欲が感じられるものでした。

カツァリスの演奏の話しに戻しますと、多重録音かと疑われたくらいのかつての「ひとり第九」の演奏は、オケ演奏と比べて物足りないなどと思うことなく、完全に曲の素晴らしさを表現できていたわけで、つまりなにが言いたいかというと、
「一人で演奏して、新しい時代を切り開いたことがある人が、いまさら二人で演奏する意味はあるのか」
ということです。

もちろん、1人か2人という人数だけで議論しているわけではありませんが、2人で演奏するならば、1人ではできなかった何か新しいことを見つけられなければ、いまさらやる意味はありません。
ではそれがあったかといえば、そこまで大げさではないものの、まあ、第4楽章の1人ではどうにもできないような苦しい箇所はさすがに2人になったことで楽にはなっています。さらに、ピッコロが大活躍するところ(盛り上がって途切れたあとマーチで再開するところ)では、カツァリス得意の高音コロコロ演奏で美音が際立ち、そこははっきりと2人で弾いたからこそ、という部分もありました。
しかし、全体的に言えば、特に第1・2楽章は、特に2人で弾くことによる特筆すべき効果がある部分はすくなく、実際に一方が弾いてるうちは一方が休むことが多く、それはリストの編曲がそうなっているから仕方ありませんが、そうすると二人の音色、音の大きさの違いが埋め切れないような印象が残りました。これは普段からずっと一緒に活動しているようなデュオでないとできないことかもしれません。

では、当日の演奏がつまらなかったかといえば、決してそうではなく、第九を丸ごとピアノで楽しめたという充実感はあります。特に広瀬さんはやはり上手く技術も文句ないし、どちらかといえば終始カツァリスをリードしてくれていましたし、カツァリスも大忙しの中、それに応えるだけの着実な演奏はしてくれましたが・・・。

さて、この二人の第九ですが、もうレコーディングも済ませているそうなので、来年いつかのタイミングで発売されるのでしょう。そして、本番は来年9月のボンのベートーヴェンフェストですが、間違いなく、今年のヨーロッパ音楽界のハイライトは、このフェストで行われるクルレンツィスのベートーヴェンチクルスなので、それに埋もれないようにそれまでにもっと二人で熟成させてほしいなと思います。(この後日本以外でやる機会はあるんだろうか?)
いずれにしても、今回はある意味、広瀬さんに感謝ですし、来年もよろしくお守をお願いしたいです。

ちなみに、クルレンツィスとムジカエテルナは4月13-14日にサントリーホールでベートーヴェン第7と第9を演奏しに再来日してくれます。私は、何があっても絶対に行きます。時代が変わるベト交が演奏される予感がします。

最新情報:また変なコンチェルトを弾く様子(アレンスキー、ハサノフ、カバレフスキー)

来年のベートーヴェンイヤーに向けて、年末から大忙しのはずなのに、また変な曲弾くみたいです。
来年2月にドイツで以前にも共演しているミーロン・マイケイリディス指揮のエアフルトフィルと。

アレンスキー:リャビーニンの主題による幻想曲 op.48
ゴットフリート・ハサノフ:ピアノ協奏曲第1番
カバレフスキー:ピアノ協奏曲第3番

そういえば、ロシアの珍しいコンチェルトを3曲弾くと上海で語ってたけど、このことか。

アレンスキーは1861年生まれでリムスキーコルサコフの弟子らしいけど、YouTubeでこの曲を聞くと、出来損ないのラフマニノフっぽい曲くらい・・・。
ハサノフは1900年生まれらしいけど、まったく調べても出てこない。曲はこんな感じ。なんか昔のドラマの間奏曲みたいな・・・。正直ピアノソロは主役じゃないわな。
カバレフスキーのピアノ協奏曲はアシュケナージにボロカス言われたらしいw3番。アレンスキー・ハサノフに比べれば、はるかに聴ける・・・。コンサートのメイン曲としてはどうかと思うけど、かっつぁんらしいかも。

いや、まあ、こういうの弾くのはいいんですけど、弾くなら本気で全世界にこの曲のよさを知らしめるくらいの気持ちで弾きこんでほしい。
なんか最近ちょっと1回弾いてみました的なものが多すぎるわ。そういえば、ベートーヴェンの今チェルトも1番、4番をどっかで弾くとか言ってたけど、ホンマかいな。

日々是カツァリス2019番外編:11月2日 上海公演遠征

ソウル、北京に続いて3回目の海外遠征は上海です。
海外までおっかけていく気力なんてもうないと思ってたんですが、中国国内ツアーのプログラムが鹿児島と同じと知り、もうスケルツォも英雄ポロネーズも日本で弾くことはないだろうし、もしかしたらこれが最後かもと思い、決意。
いつものおっかけ三人衆での遠征となりました。
今回現地ではとにかく森岡さんの旦那様にお世話になりっぱなし。 上海着の夜がまずこれですもん。
どーーーん、はい、キタ! 上海蟹!!! 

でもって、パッカー!
 
オス、メス両方堪能!!! クリーミーでまったく臭みないし、基本、生魚、魚卵系苦手なわたくしですが、ペロリ。 オスのほうが好みでしたわ。

その後、上海といえば、この夜景。 

なかなかいい雰囲気ですが、40代男、50代、ゴホゴホ(以下自粛)

翌日、昼からゆっくり観光。旧市街地、激混み。

夜は早めに食べてからコンサートに行こうということで。上海なのに北京ダック!

実は2010年の北京ツアーのときに食べた北京ダックがとても美味しく記憶に残っていたのですが、そこの同じ系列のお店があるということで。
北京の食べ方での北京ダックはこのように皮だけではなく身も食べます。(これは2010年の写真)
森岡さんによれば、このような北京風の北京ダックの食べ方は南の人からは品が無い食べ方といわれてるそう。(皮だけ食べるのが粋ということか?)
今回食べてもやっぱり美味! 皮と身の間の油がジューシーでいくらでも食べられる!
で、このお店、実は日本にもあるそうで。銀座、新宿、六本木に3店舗あるこのお店です。。。
全聚徳(ゼンシュトク) 超、高そう、実際高い! 
でも上海では1人1500円くらいで腹いっぱいでしたよ! 最高かよ!!

腹いっぱい、満腹、眠い、ホテル帰って寝たいわー まあ、でも、行くかー  会場入り口、なんか高級クラブ風。

コンサートのチラシ  なんでこんな大昔の写真? 詐欺じゃんw ベヒを弾いてる写真かもな。
それに、コンサート会場でもプログラムとか配られないし、これだけでは、ショパンの曲はともかく弟子曲弾いたら何がなんだか分からないのでは? 
 

一応、本当にコンサートに行ったという証拠写真。
 
今回も、ベヒシュタインお抱えツアーなので当然ピアノはベヒたん。
ベヒたんは今回チケット招待してくれたので悪口は言わないw(てか、客層からするとほぼベヒ宣伝の招待客なんじゃね?)

曲目は、鹿児島と少し違ってました。
即興演奏 ショパン:プレリュード Op.28-20
ショパン:ノクターン No.2 Op.9-2
フォンタナ:マズルカ Op. 21 No.2
フォンタナ:華麗な大ワルツ Op.11
ショパン:マズルカ Op.17-4
テレフセン:ノクターン No.2 Op.11 / No.4 Op.39 / マズルカ Op.3-3,4
ショパン:バラードNo.1
フィルチ:マズルカ、舟歌、さようなら!
以上、前半は鹿児島ではなかった即興演奏を頭にやって、曲順がちょっと変わっただけで同じ。
感想はまあノーコメント。座る位置が悪かったのかと思ったので、後半から空いてる最前列に移動。(みんな空いてるとガンガン移動していく!)

で、いよいよ後半。
ショパン:スケルツォNo.2
ミクリ:48のルーマニア旋律
ショパン:ワルツNo.7 Op.64-2
ショパン:幻想即興曲
グートマン:華麗なギャロップ、ポロネーズ
ショパン;英雄ポロネーズ
アンコール モニューシュコ:ワルツ
幻想即興曲が入って、弟子曲を少しカット。アンコのモニューシュコは同じ

さて。

さて。。。

まじでびっくりした

何をびっくりしたって?

あ…ありのまま 今 起こった事を話すぜ!
 
「カツァリスが死ぬ、やばい! ああやばい!と 

思ったら いつのまにか終わっていた」
 
な… 何を言っているのか わからねーと思うが

おれも 何を見たのか聴いたのか わからなかった…

頭がどうにかなりそうだった… 演奏技術だとかピアノの質だとか

そんなチャチなもんじゃあ 断じてねえ

もっと恐ろしいものの片鱗を 味わったぜ…

そんなわけで、ちょっとしたアクシデントがあったのですが、カツァリス本人から、「書くな」「書いたら、ヤクザ、バーン」と脅されているので言えません。。。
それだと読んでくださっている方は気になるでしょうから言える事として・・・。
やはり今回、ベートーヴェンプロが迫っている中、ハードスケジュールで準備不足&極度のお疲れであったのだろうと推測いたします。
目がおかしいらしいので安静にしてほしいです。
以上。

気を取り直して翌日帰国日。
また豪勢なランチ。

ここでもまた上海蟹、そして上海焼きそば最高に旨かった!

いろいろ考えるところもあったし、年末、来年のベトプロどうなるんだろうと不安も実はありますが、旨いもの食ったツアーとして良い思い出となりました。
同行の皆様、上海の皆様、お世話になりました!

ストリーミング音源情報:カツァリス1966年のデビューコンサート

2016年に France Musique で放送された音源が、まだストリーミングで聴けますので改めて紹介します。なんと、正真正銘のカツァリスのデビューコンサート、1966年5月8日パリでの演奏、カツァリス15歳(!)です。
場所はパリのシャンゼリゼ劇場で、当日は若手だけを集めた「Kingdom of Music」というコンクールに出場したようです。曲は、お得意のリストのハンガリー幻想曲。
演奏は正直言ってオケが悪いのか、ノロノロで切れもまったく無く、後のカツァリスの姿は微塵も感じられないのですが。

リスト:ハンガリー幻想曲
シプリアン:カツァリス(15歳)
ルネ・ピエール・シュトー指揮イル・ド・フランス国立管弦楽団
1966年5月8日 パリ シャンゼリゼ劇場

こちらから
https://www.francemusique.fr/emissions/portraits-de-famille/cyprien-katsaris-2-2-7545
1:34:00過ぎから聴くことができます。

その他、未発売音源の情報はこちらにも。

カツァリス最新情報:2020年ベートーヴェンフェスト・ボン出演情報

すでに一報がありましたが、ベートーヴェン・アニバーサリーイヤーの2020年にボンで開かれるベートーヴェンフェストの出演が正式に発表になっています。
予定通り、今年の年末にも披露する広瀬悦子さんとの第九デュオなのですが、カツァリス以外のプログラムがちょっと魅力的・・・。

フェステイバルは3月と9月に分かれておりまして、それぞれの柱がベートーヴェン交響曲チクルスなのですが、カツァリスが出演するのは9月でこれはなんと「ピアノでのチクルス」
第1番から第6番をなんとカツァリスの後にリスト編全曲を録音したシチェルバコフが担当。第7番、第8番をハインリック・アルパースとボリスブロックのデユオ。そしてトリとつとめる広瀬・カツァリスが第九となります。
もう、無理だとは分かっていますが、元祖交響曲全曲男カツァリスのお株を奪うように、シチェルバコフに1-6をやられてしまうなんて、正直、悔しいですな。
広瀬・カツァリスの出演は2020年9月26日(土)です。

そして、音楽界注目の目玉は3月の「オーケストラでのチクルス」。これがいまや全世界を席巻する、ぶっ飛び立ちんぼ演奏集団、クルレンティスとムジカエテルナのコンビによるベートーヴェンチクルスです。
正直いってこっちのほうが一万倍行きたいです。マジで。
 
詳細はこちら https://www.bthvn2020.de/fileadmin/user_upload/Pressemeldungen/digitale_Pressemappe.pdf

モニューシュコ作品集のカツァリス直筆解説の日本語訳

モニューシュコCDが日本でも先月発売になりましたが、ライナーノートに掲載の解説がカツァリス直筆なので、日本語訳を掲載いたします。

ワルシャワの Staniuszko中央駅を訪れた旅人はこう思うかもしれない。「Moniuszko って誰なのだろう?政治家の英雄?有名な科学者?もしかして音楽家だったのかなあ?」と。

Budapest の Liszt 空港、Salzbourg の Mozart 空港、そしてワルシャワでは Chopin 空港と名づけられたように、その駅もまた偉大な Stanislaw Moniuszko (1819-1972)に敬意を表して名づけられました。ポーランド以外ではほとんど知られていないピアニスト&オルガニストである、この並外れた作曲家は、オペラ、オペレッタ、ミサ曲を中心に360曲以上の歌曲、いくつものピアノ曲や弦楽四重奏曲を遺しました。また、ハーモニー論を書いたということも記載すべきことであります。彼はまた大学教授であり、劇場の支配人でもありました。私は、45年前にMichael Ponti(注)の素晴らしい録音のおかげで初めて Moniuszko のことを知りました。この録音は、Manoir hanté と同様に Moniuszko の最も有名なオペラのひとつである Halka のモチーフをもとにした Tausig のファンタジーで、1945年に Feliks Mendelssohn-Bartholody から下ること4世代の、George H.de Mendelssohn-Bartholdy が立ち上げたVOXレコードから発売されたものでした。そして、私がPiano21から発売したCDに収録しているピアノ用トランスクリプションの数々の著者である素晴らしい音楽家(そして物理学者)である Karol Penson 教授が、最近、Moniuszko について私の関心を引いたのです。その後、Piano Raritiesシリーズの1と3(Piano21から発売済)に、Bernhard Wolff と Michal Marian Biernacki のトランスクリプションである Moniuszko の2つの歌曲「L’étoile」と「O,ma mère(Mia Madre)」を入れることにしました。その少し後に、「ショパンと彼のヨーロッパ音楽祭(ワルシャワ 2013年)」で私が演奏する機会があった時、そのイベントの発起人であり Narodowy Instytut Fryderyka Chopina (Institut Frédéric Chopin / ショパン研究所)の局長補佐であるStanislaw Leszcynski さんから、Moniuszko の音楽のとある企画の実現について、お誘いを受けたのです。

2019年、我々はこの偉大な作曲家の生誕200年を祝うことになりました。それこそが、私が2018年末、2019年8月27日に Moniuszko の音楽を含めたプログラムのリサイタルの依頼を受けた理由なのであります。私は、コンサートの第1部ではショパンの弟子達が作曲した作品を(Karol Mikuli、Thomas Tellefsen、Adolphe Gutmann、Julian Fontana、Carl Filtsch)、そして第2部では Moniuszko の作品を演奏することに決めました。その時、私は身震いさせられるような驚くべきことを知ったのです。なんとMoniuszkoは、私と同じ5月5日生まれだったのです!

私は、直ぐにこの偶然の一致のことを、Moniuszko の作品を収録したCDを発売するというアイデアを持っていた Stanislaw Leszczynski に話しました(今までに Moniuszko のピアノトランスクリプションの作品の録音はひとつも発売されていない)。そして、できる限り我々の誕生日である5月5日にCDを発売すること、また、同じ日にコンサートを開くよう、準備するようにと言ったのでした。私は早速、2月の35回目の日本ツアーの最中に、集中して準備を始めました。Moniuszko の音楽は、私にとって偉大な発見であったということを認めざるを得ませんでした。彼の作品の多様性と偉大さは、世界中の人々に知ってもらう価値があるに違いないと。

彼のピアノのための創造芸術はそれほど多くはないにもかかわらず、各々の小さな作品の価値は驚くべきものがありました:それはまさに宝の山でした。全ての作曲家と同様に、Moniuszko は他の作曲家達(Carl Maria von Weber、Robert Schumann、Mendelssohnなど)から影響を受けました。(Chopin と Moniuszko がすでに出会う機会があったかどうかは確かではありません。)しかしながら、この作曲家は自分のオリジナルなスタイルを発展させました:誰もが知っている歌曲やポーランドの舞曲(マズルカ、ポロネーズ)だけではなく、ウクライナのメランコリックな歌曲(doumka)や、有名な南イタリアの Villanelle(後にカンツオネッタとなった16世紀のナポリでみられた田舎っぽい、皮肉で滑稽な3声のlaique)などを取り入れたのです。興味深いことには、間違いなくエロティズムが薄く色づいた Moniuszko のノクターンは、「巡礼の年第2年への追加、ヴェネツィアとナポリ」のタランテラの寄せ集めの1部分、けだるいナポリのカンツォーネの寄せ集めと比較することができます。

ここで紹介されている作曲家の歌曲とオペラの主題に関するさまざまなトランスクリプションと幻想曲の背景には、Moniuszko 自身が、オペラ「Manoire hanté et Halka」の中の2つのマズルカのこの独特で柔軟なリズムを、オーケストラで演奏するよりもピアノで演奏する方よりたやすくしているのだということを意識して編曲しなおしているのだということを注記しておきます。もし、Moniuszko の作品、とりわけ Cosaque、Doumkas、あるいは Noturne が国際的なコンサートホールでアンコール曲として演奏されていたなら、世界的なステイタスを得て、またこのポーランドの天才の名前を世に出すことに一役買うことになったであろうと、私は確信しています。一方では、200年たった現在に至っても、Moniuszkoが得るべき国際的な名声をまだ獲得していないことは非常に残念であります。しかし他方では、無尽蔵な貴重な音楽作品のおかげで、我々はまだまだ新たな発見をすることができるのです。。。

Cyprien Katsaris

注:Michael Ponti:ドイツ出身のアメリカのピアニストで現在81歳

日々是カツァリス2019:7月19日鹿児島公演(霧島国際音楽祭)

少し時間がたってしまいましたが、鹿児島公演の振り返りを。

「来た」「見た」「弾いた」

と、ユリウス・カエサル風にいえばこうなるのでしょうが、久しぶりの遠征。なんのために鹿児島まで遠征したかといえば、もちろん、この件。
ショパンのバラード1番、スケルツォ2番、英雄ポロネーズというこの3曲をコンサートで弾くというサプライズ。いや、もう当日まで信じられなかったです。ホールに入って、まず確認したのはプログラム。

プログラムは、ショパンの弟子曲とショパン曲を交互に弾くスタイル。カツァリスがなにかテーマがあるときにはこういうプログラミングが多いんですが、こういうときってムダに長いんだよなー。

ショパン弟子の曲はあとでまとめてコメントするとして、前半のハイライトはバラード1番。いうまでもなく、初披露。バラードは「ショパンを弾く」の模範演奏で3番を披露したことがあり、コンサートでも2番は2015年に披露しているますが、どうしても名盤誉れ高いテルデック盤の演奏と比べてしまいます。30数年前の演奏とくらべても、意外にテンポも速く、あっさり目。カツァリスってはじめて弾く曲ってこんな感じになるわねと。
前半はちょっと試運転だったのか、またとにかくピアノが鳴らずに、ホールもデッドな音響でちょっとつらかったです。あと、ショパン弟子分が長いよ。

後半はいきなりのスケルツォ2番からスタート。いやもう感無量。まじで弾いたよ。ちょっとフラっとしたとこもあったけど、無問題。無事弾き終わり、「この曲をコンサートで弾いたのはこれが初めてです。ここ鹿児島で」とうれしそうに舞台上から話すカツァリス。今日はよく喋るなー、でも普通そんなこと喋るか(笑) 
お得意のワルツ64-2はもう手馴れた感じでいつもの内声えぐり炸裂。年々極端になっていってる気がする・・・。
で、最後の英雄ポロネーズ。もう正直言えば、30年前いや20年前に弾いてくれていれば、と思わないこともないですが、68歳にして初弾、チャレンジしてくれたことに感謝。願わくば、今後ももっと弾きこんでほしいなと。細かいところではCDでやってたことや模範演奏のときとは違うところも多くて、その変化はちょっと興味深いのですが、なにせ1回聴いただけではわからんです。。。
後半は前半よりもピアノの鳴りも良くなって、盛り上がり終了。

アンコールは予想通り、今年イチ推しのモニューシュコのワルツ変ホ短調。しばらくアンコールはこれでいくに違いない。
その他、ショパン弟子では、テレフセンのノクターンが秀逸。フィルチは一番ショパンっぽかった。グートマンのポロネーズはこれがあったから、このあと英雄ポロネーズを弾いたのかと思うような感じ。
全部でコンサートは開演から2時間10分こえたので、ちょっと前半が長いような気がしますが、ショパンの3曲聴けただけでも遠征の甲斐あり。
でも、雨、湿気もあってか、前半とくに響かず、浜離宮などの室内楽専用ホール以外のホールでは、ヤマハではなくスタインウェイを使ってほしいなー。

カツァリスは、この鹿児島でのコンサートの後、霧島音楽祭のマスタークラスへの参加となる予定でしたが、8月21日のガラコンサートでソプラノのアンドレア・ロストが出演をキャンセルしたため、急遽ピンチヒッターとしてグリーグ、シューベルトを弾いたそうです。

その霧島も無事終了し、まるで追加公演のように、このプログラムは8月5日に大阪でもあるのですが、再び、遠征すべきか・・・。

果たして本当にカツァリスは英雄ポロネーズを弾くのか?

カツァリスは1週間後に霧島音楽祭の一環としての鹿児島でコンサートを行うために今年2回目の来日となります。
その鹿児島でのコンサートは、「ショパンとその弟子」というプログラムタイトルなのですが、以前にも驚愕して投稿したように、なんと「英雄ポロネーズ」が入っているのです。
そのときのツイート。

いまも、このオッズ変わってませんwww
いうまでもなく、カツァリスの英雄ポロネーズ演奏はこれが有名です。

CDはあるものの、コンサートで弾いたことはなく、絶対に弾こうとはしませんでしたがなぜか突然予定曲目に。。。
しかも、そのほかにも、バラード1番や、これは鹿児島では発表されていないものの8月の大阪ではスケルツォ2番まで。。。
いったいどういう心境の変化なのでしょうか。
その後のツイート。

いまも、このオッズ変わってません、その2www。
正直、このような期待にずっこけされられたことも少なくないわけで、怖いです。
しかし、もし、もしも、本当に弾くのならば、という思いで、旅立ちます。
明日からなぜか福岡、長崎、熊本と旅行で回って最終日鹿児島に乗り込みます。
カツァリスの演奏会は「ついで」だから、曲目変更があっても「まあ、仕方ないか」で済むに違いない!

宮沢明子さんとカツァリス

少し前ですが、 ピアニストの宮沢明子さんが4月に亡くなっていたとニュースになりました。
https://tower.jp/article/campaign/2019/06/04/01

これといって仲のいい演奏家がいないカツァリスにとって、宮沢明子さんは数少ない親友と呼べる人だったでしょう。
伊熊よし子さんのインタビューにでは宮沢さんが、「シプリアン・カツァリスとは姉弟のような関係」と答えています。

また、2008年10月の浜離宮公演では、アンコールに飛び入り参加し、カツァリスとを連弾したこともありました。
残念ながら、カツァリスは最近会っておらず、訃報も知らなかったようです。

冥福をお祈りしつつ、音楽の友1987年6月号に掲載された2人の対談をどうぞ。
(なお、対談冒頭の2回目の来日の日時は間違っています。2回目は1986年ではなく初来日と同じ年の1985年10月です)

最新情報:これまでのインタビューの中で最長・最高のもの 焦元溥著「ピアニストが語る! 静寂の中に音楽があふれる」

少し前ですが、台湾の音楽ジャーナリスト、焦元溥(チャオ・ユアンプー)さんが書いた、著名ピアニストとの対談・インタビューの第4弾が発売され、そこにとうとうカツァリスのインタビューが掲載されています。もちろん、日本語訳は我らが盟友の音楽ジャーナリスト森岡葉さんです。

静寂の中に、音楽があふれる (現代の世界的ピアニストたちとの対話 第四巻)
焦 元溥 (著), 森岡 葉 (翻訳)  アルファベータブックス社

 

 

 
 
 
 
 
 
 
 
 
この中でカツァリスのインタビューはおよそ30ページ分収録されており、かなり長い分量は彼の幼少期から学生時代に割かれており、文句無く、これまでのインタビューの中で、最長で最高のものということができます。新しい事実やエピソードもいくつか、これではじめて知ったというものもあり、絶対に必読です。
ただ、実際にインタビューが行われたのは2013年なので最新情報というわけではありません。そのせいか、ベートーヴェン交響曲ピアノ編曲の流れから、「リストは第九をピアノ2台版に編曲していますが。これを録音することを考えてますか?」という問いに「私は2台ピアノの演奏は原則的にしないことにしています」などと、答えてしまっているのはご愛嬌。この本が今年の来日公演のデュオの日に会場でCDと一緒に売られていても、突っ込みなしでお願いします。
そして、なんといっても、作者のあとがきのタイトルが「変人ではない、才気あふれる超絶技巧の名手なのだ!」とあるにもかかわらず、空港であったツィメルマンへのカツァリスらしい奇行エピソードでオチをつけてくくれるあたり最高の締めとなっています。
さらに、カツァリス以外に収録されているピアニストは、カツァリスと因縁のアファナシェフ、仲のいいスティーブン・ハフ、カツァリスの次にベト交響曲を録音したシチェルバコフ、など何かと関係ある人ばかりで、特にアファナシェフはいろいろ大変な人生で、まあ優勝させてあげてよかったんじゃない?と少し許してあげる気持ちになりました(笑)。

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