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モニューシュコ作品集のカツァリス直筆解説の日本語訳

モニューシュコCDが日本でも先月発売になりましたが、ライナーノートに掲載の解説がカツァリス直筆なので、日本語訳を掲載いたします。

ワルシャワの Staniuszko中央駅を訪れた旅人はこう思うかもしれない。「Moniuszko って誰なのだろう?政治家の英雄?有名な科学者?もしかして音楽家だったのかなあ?」と。

Budapest の Liszt 空港、Salzbourg の Mozart 空港、そしてワルシャワでは Chopin 空港と名づけられたように、その駅もまた偉大な Stanislaw Moniuszko (1819-1972)に敬意を表して名づけられました。ポーランド以外ではほとんど知られていないピアニスト&オルガニストである、この並外れた作曲家は、オペラ、オペレッタ、ミサ曲を中心に360曲以上の歌曲、いくつものピアノ曲や弦楽四重奏曲を遺しました。また、ハーモニー論を書いたということも記載すべきことであります。彼はまた大学教授であり、劇場の支配人でもありました。私は、45年前にMichael Ponti(注)の素晴らしい録音のおかげで初めて Moniuszko のことを知りました。この録音は、Manoir hanté と同様に Moniuszko の最も有名なオペラのひとつである Halka のモチーフをもとにした Tausig のファンタジーで、1945年に Feliks Mendelssohn-Bartholody から下ること4世代の、George H.de Mendelssohn-Bartholdy が立ち上げたVOXレコードから発売されたものでした。そして、私がPiano21から発売したCDに収録しているピアノ用トランスクリプションの数々の著者である素晴らしい音楽家(そして物理学者)である Karol Penson 教授が、最近、Moniuszko について私の関心を引いたのです。その後、Piano Raritiesシリーズの1と3(Piano21から発売済)に、Bernhard Wolff と Michal Marian Biernacki のトランスクリプションである Moniuszko の2つの歌曲「L’étoile」と「O,ma mère(Mia Madre)」を入れることにしました。その少し後に、「ショパンと彼のヨーロッパ音楽祭(ワルシャワ 2013年)」で私が演奏する機会があった時、そのイベントの発起人であり Narodowy Instytut Fryderyka Chopina (Institut Frédéric Chopin / ショパン研究所)の局長補佐であるStanislaw Leszcynski さんから、Moniuszko の音楽のとある企画の実現について、お誘いを受けたのです。

2019年、我々はこの偉大な作曲家の生誕200年を祝うことになりました。それこそが、私が2018年末、2019年8月27日に Moniuszko の音楽を含めたプログラムのリサイタルの依頼を受けた理由なのであります。私は、コンサートの第1部ではショパンの弟子達が作曲した作品を(Karol Mikuli、Thomas Tellefsen、Adolphe Gutmann、Julian Fontana、Carl Filtsch)、そして第2部では Moniuszko の作品を演奏することに決めました。その時、私は身震いさせられるような驚くべきことを知ったのです。なんとMoniuszkoは、私と同じ5月5日生まれだったのです!

私は、直ぐにこの偶然の一致のことを、Moniuszko の作品を収録したCDを発売するというアイデアを持っていた Stanislaw Leszczynski に話しました(今までに Moniuszko のピアノトランスクリプションの作品の録音はひとつも発売されていない)。そして、できる限り我々の誕生日である5月5日にCDを発売すること、また、同じ日にコンサートを開くよう、準備するようにと言ったのでした。私は早速、2月の35回目の日本ツアーの最中に、集中して準備を始めました。Moniuszko の音楽は、私にとって偉大な発見であったということを認めざるを得ませんでした。彼の作品の多様性と偉大さは、世界中の人々に知ってもらう価値があるに違いないと。

彼のピアノのための創造芸術はそれほど多くはないにもかかわらず、各々の小さな作品の価値は驚くべきものがありました:それはまさに宝の山でした。全ての作曲家と同様に、Moniuszko は他の作曲家達(Carl Maria von Weber、Robert Schumann、Mendelssohnなど)から影響を受けました。(Chopin と Moniuszko がすでに出会う機会があったかどうかは確かではありません。)しかしながら、この作曲家は自分のオリジナルなスタイルを発展させました:誰もが知っている歌曲やポーランドの舞曲(マズルカ、ポロネーズ)だけではなく、ウクライナのメランコリックな歌曲(doumka)や、有名な南イタリアの Villanelle(後にカンツオネッタとなった16世紀のナポリでみられた田舎っぽい、皮肉で滑稽な3声のlaique)などを取り入れたのです。興味深いことには、間違いなくエロティズムが薄く色づいた Moniuszko のノクターンは、「巡礼の年第2年への追加、ヴェネツィアとナポリ」のタランテラの寄せ集めの1部分、けだるいナポリのカンツォーネの寄せ集めと比較することができます。

ここで紹介されている作曲家の歌曲とオペラの主題に関するさまざまなトランスクリプションと幻想曲の背景には、Moniuszko 自身が、オペラ「Manoire hanté et Halka」の中の2つのマズルカのこの独特で柔軟なリズムを、オーケストラで演奏するよりもピアノで演奏する方よりたやすくしているのだということを意識して編曲しなおしているのだということを注記しておきます。もし、Moniuszko の作品、とりわけ Cosaque、Doumkas、あるいは Noturne が国際的なコンサートホールでアンコール曲として演奏されていたなら、世界的なステイタスを得て、またこのポーランドの天才の名前を世に出すことに一役買うことになったであろうと、私は確信しています。一方では、200年たった現在に至っても、Moniuszkoが得るべき国際的な名声をまだ獲得していないことは非常に残念であります。しかし他方では、無尽蔵な貴重な音楽作品のおかげで、我々はまだまだ新たな発見をすることができるのです。。。

Cyprien Katsaris

注:Michael Ponti:ドイツ出身のアメリカのピアニストで現在81歳

日々是カツァリス2019:7月19日鹿児島公演(霧島国際音楽祭)

少し時間がたってしまいましたが、鹿児島公演の振り返りを。

「来た」「見た」「弾いた」

と、ユリウス・カエサル風にいえばこうなるのでしょうが、久しぶりの遠征。なんのために鹿児島まで遠征したかといえば、もちろん、この件。
ショパンのバラード1番、スケルツォ2番、英雄ポロネーズというこの3曲をコンサートで弾くというサプライズ。いや、もう当日まで信じられなかったです。ホールに入って、まず確認したのはプログラム。

プログラムは、ショパンの弟子曲とショパン曲を交互に弾くスタイル。カツァリスがなにかテーマがあるときにはこういうプログラミングが多いんですが、こういうときってムダに長いんだよなー。

ショパン弟子の曲はあとでまとめてコメントするとして、前半のハイライトはバラード1番。いうまでもなく、初披露。バラードは「ショパンを弾く」の模範演奏で3番を披露したことがあり、コンサートでも2番は2015年に披露しているますが、どうしても名盤誉れ高いテルデック盤の演奏と比べてしまいます。30数年前の演奏とくらべても、意外にテンポも速く、あっさり目。カツァリスってはじめて弾く曲ってこんな感じになるわねと。
前半はちょっと試運転だったのか、またとにかくピアノが鳴らずに、ホールもデッドな音響でちょっとつらかったです。あと、ショパン弟子分が長いよ。

後半はいきなりのスケルツォ2番からスタート。いやもう感無量。まじで弾いたよ。ちょっとフラっとしたとこもあったけど、無問題。無事弾き終わり、「この曲をコンサートで弾いたのはこれが初めてです。ここ鹿児島で」とうれしそうに舞台上から話すカツァリス。今日はよく喋るなー、でも普通そんなこと喋るか(笑) 
お得意のワルツ64-2はもう手馴れた感じでいつもの内声えぐり炸裂。年々極端になっていってる気がする・・・。
で、最後の英雄ポロネーズ。もう正直言えば、30年前いや20年前に弾いてくれていれば、と思わないこともないですが、68歳にして初弾、チャレンジしてくれたことに感謝。願わくば、今後ももっと弾きこんでほしいなと。細かいところではCDでやってたことや模範演奏のときとは違うところも多くて、その変化はちょっと興味深いのですが、なにせ1回聴いただけではわからんです。。。
後半は前半よりもピアノの鳴りも良くなって、盛り上がり終了。

アンコールは予想通り、今年イチ推しのモニューシュコのワルツ変ホ短調。しばらくアンコールはこれでいくに違いない。
その他、ショパン弟子では、テレフセンのノクターンが秀逸。フィルチは一番ショパンっぽかった。グートマンのポロネーズはこれがあったから、このあと英雄ポロネーズを弾いたのかと思うような感じ。
全部でコンサートは開演から2時間10分こえたので、ちょっと前半が長いような気がしますが、ショパンの3曲聴けただけでも遠征の甲斐あり。
でも、雨、湿気もあってか、前半とくに響かず、浜離宮などの室内楽専用ホール以外のホールでは、ヤマハではなくスタインウェイを使ってほしいなー。

カツァリスは、この鹿児島でのコンサートの後、霧島音楽祭のマスタークラスへの参加となる予定でしたが、8月21日のガラコンサートでソプラノのアンドレア・ロストが出演をキャンセルしたため、急遽ピンチヒッターとしてグリーグ、シューベルトを弾いたそうです。

その霧島も無事終了し、まるで追加公演のように、このプログラムは8月5日に大阪でもあるのですが、再び、遠征すべきか・・・。

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