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You Tube情報:2024年9月8日ショパンと彼のヨーロッパ音楽祭の音源

2024年のショパンと彼のヨーロッパ音楽祭のトリとなったワルシャワフィルとの共演音源がYou Tubeにアップされました。Polskie Radioで放送されると思ってたのですが、いつのまにかオンエアされてたようです。
プログラムは以下の通りです。

リスト:ベートーヴェンの『アテネの廃墟』の主題による変奏曲
リスト:ハンガリー幻想曲
アントニー・ヴィット指揮ワルシャワ国立フィルハーモニー管弦楽団
(2024年9月8日)

アンコール
1.観客から与えられた3つの音を使った即興演奏
2.Remember that automn?(編曲:M. Kaszycki)
  Nostalgic Polish Tango(編曲:Karol A, Penson)
3.ショパン:マズルカ第45番Op.67-4

ショパンの音楽祭なのにリスト弾きまくって、よくわからないお題を3つもらってのアンコール(らくごのごみたいなやつ)に、ポーランドのポピュラーなメロディー。最後にようやくショパンのマズルカ。
途中のアンコールでガサガサ音がして笑い声が入ってるのは譜面を落としたかららしいです。

https://www.youtube.com/watch?v=zkM4I1yD6ss

ウェブラジオ情報:2月23日RTVスロヴェニア交響楽団

久しぶりにウェブラジオでの生放送があります。

2月22日19:30-22:00 (日本時間23日深夜3:30-6:00)
放送局RTVスロヴェニア

リスト:ピアノ協奏曲第2番イ長調 S.125
リスト:ハンガリー幻想曲 S.123
R.シュトラウス:組曲「ばらの騎士」 op.56
ラヴェル:舞踊詩「ラ・ヴァルス」

シプリアン・カツァリス(ピアノ)
リオ・クオクマン指揮RTVスロヴェニア交響楽団

曲はリストの2曲。最近日本では弾いていないけど十八番中の十八番ですな。
指揮者は、香港、マカオのオケの常任指揮者、クオクマン。

聴き方は下記のリンク先番組表で時間になって生中継で聴くか、どうもすぐじゃなくても何日かたったらアーカイブされるようなので、
3:30まで起きてなくても大丈夫かと思います。たぶん。。。
https://ars.rtvslo.si/spored/2024-02-22

激レアLPを入手:1975年パリでのライブ

長年カツァリスの正規・非正規録音のコレクターをやってますが、まだ知らなかったものが出てくるなんて思わなかったですが、運よく入手できました。

《NUIT DE LA QUATRA 74-75》
リスト:メフィストワルツ第1番 S.514
バッハ:ラルゴ(ピアノ協奏曲BWV1056)

 

1975年5月23日パリ・ギメ美術館でのライブ録音。
AAAA(Association of Armenian Artistic Action)主催による1975年のライブの一部に出演したときの非売品LP。

このときの出演についてカツァリスにきくと、この年1975年4月24日に例のシフラの前で演奏した熊蜂の飛行のTV生放送があり、それをみたアルメニア人アートディレクターのグレゴール・ハンパルツォミアン(Gregor Hampartzoumian)が急遽依頼してきたとのこと。ライブのタイトルは「NUIT DE LA QUATRA(クアトラの夜)」となっており、クアトラというのは1972年にこのハンパルツォミアンが設立した「アルメニア芸術活動協会」のこと。

なぜカツァリスに依頼があったかといえば、このTV放送があった4月24日というのはアルメニア人にとって重要な20世紀初頭にあったオスマントルコによる「ジェノサイド追悼記念日」(Wiki)らしく、カツァリスの演奏にこのハンパルツォミアンが感激したことに加え、この前年1974年にトルコによるキプロス侵攻があり、カツァリスを同じトルコによる被害国出身者としてシンパシーがあったのでは?ということらしい。

演奏については若きカツァリスの才気あふれる元気のいい演奏で、しかもテルデック録音以外の生演奏のメフィストワルツ第1番というのは非常に珍しく貴重な記録。(いままで協奏曲バージョンは生演奏で弾いた記録はあるが、ソロはこれが唯一)

ディスコグラフィー → https://wp.me/PaBulV-9O

カツァリスとラフマニノフ

まもなく詳細は発表になると思いますが、今年の来日公演はラフマニノフ生誕250年ということで「ラフマニノフへのオマージュ」というテーマになっています。
オマージュなのでラフマニノフプロではないところがかっつぁんらしいと思いますが、何を弾くのでしょうか。

これまでカツァリスが弾いたラフマニノフは以下の通りです。(カッコ内は収録CD)
(ソロ曲CD)
ピアノ協奏曲第3番 Op.30(エリザベートコンクールライブ、アーカイブス「ロシアンミュージック」)
前奏曲 Op.23-2(親和力)
前奏曲 Op.23-4(アーカイブス「ロシアンミュージック」)
前奏曲 Op.23-5(アーカイブス「ロシアンミュージック」)
エチュード「音の絵」 Op.39-1 (チャイコフスキーコンクールライブ)
幻想的小品集 Op.3-2「鐘」(アーカイブス「ロシアンミュージック」)←これは今回プログラムに入ってる
ショパンの主題による変奏曲 Op.22(変奏曲集)
(編曲物CD)
2台のピアノのための組曲第1番 Op.5 より 第2・3楽章(ハープ・ミーツ・ピアノ)
ヴォカリーズ(ピアノレアリティーズVol.1)
2台のピアノのための組曲第2番 Op.17(ピアノレアリティーズVol.3)
交響曲第2番ホ短調 Op.27よりアダージョ(ピアノレアリティーズVol.3)

あとCDにはなってませんが、2013年の浜離宮では 幻想的小品集Op.3-3「メロディ」を弾いています。
これらを組み合わせてもちょっとプログラムにはなりそうにありませんが、以前にかっつぁんが「ラフマニノフのピアノ協奏曲の2、3番を抜粋してソロバージョンにしてCDを作りたい」とか言ってましたし、前回のコンサートのアンコールではラフマニノフ2番コンチェルトのメロディーを弾いてたりしたので、案外そういうのだと「オマージュ」というテーマにも合ってるような気がします。

ウェブラジオ情報:WDRで1984年のハンガリー幻想曲を放送

今週6月11日(日)の朝7時からドイツWDRにて1984年のハンガリー幻想曲が放送されます。いままで何回か放送されてきましたが、これが実にいい演奏ですので、聴いたことがない人はぜひ。
演奏は、1984年1月27日にドイツ・ザールブリュッケンで行われたもので、名匠ピンカス・スタインバーグ指揮で地元ザールブリュッケン放送交響楽団との共演です。カツァリス32歳のときで若手パリパリのころですが、とにかくタッチの強靭さと演奏の推進力がいまとまるっきり違います。ついてこいとばかりにオケにケンカを売って破綻しかけるくらいのスリリングさとそれに負けじとムキになる分厚いオケ演奏に痺れます。ここから10年くらいがかっつぁんの全盛期だったのだなあとあらためてため息が出ます。。。

放送は下記の予定ですが、番組の中で5曲目の放送順なのですが、何時に流れるか分かりません。たぶん7:45から8:00くらいではないかと推測します。
2023年6月11日ドイツ時間0:03-06:00(日本時間07:03-13:00)WDR 3(https://www1.wdr.de/radio/wdr3/
Das ARD Nachtkonzert (https://www.wdr.de/programmvorschau/wdr3/sendung/2023-06-11/00-03/whatson_11068335183527/das-ard-nachtkonzert.html

Wolfgang Amadeus Mozart:Rondo C-Dur, KV 373; Lena Neudauer, Violine; Deutsche Radio Philharmonie Saarbrücken Kaiserslautern, Leitung: Bruno Weil
Philippe Gaubert:Trois aquarelles; shawnigan-trio
Georges Auric:Les fâcheux; Deutsche Radio Philharmonie Saarbrücken Kaiserslautern, Leitung: Christoph Poppen
Dmitrij Schostakowitsch:Streichquartett Nr. 3 F-Dur, op. 73; Rasumowsky Quartett
Franz Liszt:Ungarische Fantasie; Cyprien Katsaris, Klavier; Rundfunk-Sinfonieorchester Saarbrücken, Leitung: Pinchas Steinberg(5曲目です)

1984年1月27日ドイツ・ザールブリュッケン
リスト:ハンガリー幻想曲
ピンカス・スタインバーグ指揮
ザールブリュッケン放送交響楽団

実はこの日はハンガリー幻想曲のほかに、例の悲愴協奏曲も演奏されていますが、こちらはあまり再放送されません。。。

更新記録:ディスコグラフィーにドンジョバンニ、ハイドン協奏曲を追加

ちょっとさぼってましたディスコグラフィーコーナーに、ドンジョバンニとハイドン協奏曲を追加してアップデートしました。
で、気づいたのですが、マリナーと共演したハイドンの協奏曲は皇帝と同時に録音して、皇帝のみ発売されてたという認識だったのですが、ハイドンは2013年4月、皇帝は2014年4月の録音と表記されており、カツァリスに確認したところ、セッションは確かに2回行ったとのことなので、同時ではなかったので訂正します。

ディスコグラフィー
http://cyprien-katsaris.main.jp/discography/

ギリシャでのインタビュー「10+1の質問に答えます」

カツァリスは先週12月9日に故郷ギリシャのテサロニキでたびたび共演している地元オケとリストのピアノ協奏曲第2番とハンガリー幻想曲という懐かしい組み合わせでコンサートを行いました。
それに先立ちたぶんニュースサイトだとおもうのですが、インタビューが掲載されていたので紹介します。8番目になかなか香ばしいネタを放り込んでくれていますwww

シプリアンカツァリス独占インタビュー「10+1の質問に答えます」
https://cosmopoliti.com/o-pianistas-kai-synthetis-cyprien-katsaris-apanta-se-10-1-erotiseis/

あなたは世界的に有名なピアニストの一人であり、パリを拠点に国際的にギリシャとキプロスのギリシャ文化大使を務めていますね。 テサロニキ・コンサートホールとの共催で12月9日に行われるテサロニキ国立管弦楽団との共演について、あなたの職業やピアノを通してプロとして自分を表現しようと思ったきっかけについて教えてください。

私が3歳半のとき、父が大きなビジネスをしていたカメルーンに家族で住んでいました。両親は姉のためにピアノを買ってくれました。見た瞬間に磁石のように吸い寄せられました! 前世はピアニストだったのかもしれない!? 私にとってピアノは愛人、音楽は妻です!!!!
テサロニキ国立管弦楽団とは特別なつながりがあり、長年にわたってのコラボレーションはいつも楽しい経験でした。芸術的なレベルが非常に高く、人材もユニークだからです。 数年前にミロン・ミケリデスの指揮でベルリンで行ったKOTHとのコンサートは素晴らしい評価を得ましたし、それ以前にキプロスでミキス・テオドラキスのピアノ協奏曲を演奏したことも特筆に値します。

1.1日何時間働いているのですか?

数え切れないほど勉強していますが、疲れるようなものではありません。大事なのは結果であって、ピアニストは(信じられないような話ですが)、アーティストが自分の殻を破ってインスピレーションを持って作曲したものを演奏するところまで、労働者のように懸命に働くのです。

2.あなたが幸せだと思うことを3つ教えてください。

お客さまがコンサートを楽しんでくれて、みんなが笑顔で帰っていくのを見ると、私も嬉しくなりますね。私たちはアーティストとして、観客に「美しい」を届け、数時間でも悩みを忘れさせ、共に精神的に高揚させる責任があります。
また、自分のレーベルであるPIANO21でのレコーディングも楽しんでいます。録音は数え切れないほどあり、最近ではギリシャの作曲家との新録音を「メリズム」レーベルからリリースしました。
また、魅力的な女性との付き合いも、私の楽しみの一つです。

3.ご自身のキャリアの中で、ハイライトは何だと思われますか?

私のキャリアのハイライトは、幸か不幸か非常に多いのですが、その中から代表的なものをいくつか挙げます。偉大な作曲家の命日にニューヨークのカーネギーホールで行った「ショパン追悼コンサート」では、観客が立ち上がって拍手し続けました。
また、2008年の北京オリンピックでは、中国のスター、ラン・ランをはじめ、世界各国から選ばれた10人のピアニストの1人として参加しました。もうひとつ感傷的なのは、幼いころに初めてヘロディオンで演奏したときのことです。

4.身だしなみには気を遣っていますか?

私にとってファッションとは、女性をより美しくするためのものなのです。人前に出るとき以外は、あまり身だしなみに気を使わないようにしています。
長年、燕尾服を着て演奏してきましたが、数年前、ベルナール・アルノー(フォーブス誌によると世界第2位の富豪)のルイ・ヴイトン財団のコンサートで、初めてディオールのスーツで演奏することにしました。
また、ピアニストのエレーヌ・メルシエ(アルノーの妻)と一緒にCDのジャケット写真を撮るために、偉大なファッションデザイナー、カール・ラガーフィールドに会う機会に恵まれ、彼は私に彼の作品を着せて、私たちを直接撮影してくれました。 温厚で素敵な紳士でした!

5.世界各地でコンサートを開催されていますね。これまで一緒に仕事をしてきた有名な指揮者やオーケストラのほかに、あなたが出会った国際的な著名人の中で、あなたを魅了した人、感銘を受けた人はいますか?

ロジャー・フェデラー、ナタリー・ポートマン、ジャック・シラク、ジスカール・デスタン、ジミー・カーター、ジョン・トラボルタ、アンソニー・クインなど、私がこれまで直接お会いした有名俳優や政治家は、いずれも気負いのないシンプルな対人関係を保つ人でしたよ。

6.ミキス・テオドラキスとはどのような関係なのでしょうか?

私たちはパリで出会い、それ以来、多くのコンサートやレコーディングを行い、友好的かつプロフェッショナルな関係を築いてきました。
その後、彼からバレエ「ゾルバ」のスコアをもらい(私はずっと「ゾルバ」の音楽的テーマに基づいたラプソディーを書きたいと思っていた)、53分の作品を作曲し、PIANO21に録音しました。幸運なことに彼が生きている間にそれをリリースすることができ、とても喜んでくれ、とても感動してくれました。

7.ディナーに招待したい有名人とその理由は?

3年前、中国で開催された第1回国際映画祭にゲストアーティストとして参加し、そこでジュリエット・ビノシュ、ジョニー・デップ、イザベル・ユペールなどの有名ハリウッド俳優と出会い、レッドカーペットを歩いたり、ミスワールドやファイナリスト8人に会い、みんな素敵でしたよ。一人でこれだけの美しさを堪能できるランチで、私のゲストが全員揃っていたら理想的でしたね。

8.これまで女性に贈った最も高価なプレゼントは何ですか?

私の記憶が正しければ、9,000ユーロのロレックスの時計です。しかし、正確にはその数年前に、私は恋人に14,000ユーロの楽器をプレゼントしたのです。

9.ギリシャ系キプロス人の両親のもとフランスで生まれ、パリに住んでいるそうですね。光の街、キプロスでそれぞれ何に惹かれ、何を変えたいのか。

パリは世界一美しい街なので、変わらないでいてほしいです。キプロスに関しては、いまだに解決されず、ギリシャ系キプロス人全体を苦しめている分割の問題を…。

10.人生のモットーは何ですか?

自分の芸術を常に進化させること….。

たぶん何年も前での9000ユーロのロレックスなんて、いまでは何百万円になってることやら、かっつぁん、気前良すぎ!

ウェブラジオ情報:11月24日MAV交響楽団との共演

現地2022年11月24日にブダペストで行われたMAV交響楽団との共演が Bartok Radioから生中継されていたのに気づかなかったのですが、毎度ありがたいことに高音質でアーカイブされていますので紹介します。

リスト:ベートーヴェンの「アテネの廃墟」の主題による幻想曲 S.122(協奏曲バージョン)
シューベルト/リスト編:さすらい人幻想曲 S.366(協奏曲バージョン)
カツァリス:即興演奏(アンコール)

シプリアン・カツァリス(ピアノ)
ロベルト・ファルカシュ指揮 MAV交響楽団(ハンガリー鉄道交響楽団)
2022年11月24日 ブダペスト、リスト・フェレンツ音楽院コンサートホール

「アテネの廃墟」の主題による幻想曲はこれまでソロバージョン(S.389)のみ弾いていたように思うので(UNESCOの海賊LPで録音あり)、協奏曲バージョンは超貴重。面白い曲なので、今後も弾いてほしい。
シューベルト・リスト編のさすらい人幻想曲は最近またときどき弾き直しているおなじみのレパートリー。
アンコールはなんかのテーマの即興演奏。冒頭笑いがおきているので、現地ではおなじみの曲なんだろうかw
全体的に最近にしては珍しくピアノが重厚に響いていい演奏だし、オケもよくわからない鉄道会社所有のオケらしいけど、下手じゃないし、なにより高音質で定評あるBartok Radio のストリーミング音質が素晴らしく、まるごとアーカイブも感謝。休憩中にカツァリスのインタビューが流れるが、英語でのインタビューにハンガリー語のナレーションが被せられるので聞き取り不可能。だいたい何言うかは決まってますが。

聴き方
① https://mediaklikk.hu/bartok/ にアクセス。
② 下部の番組表(rádió műsor)の左矢印ボタンを11/24が出るまでクリック。
③ 11/24の18:59にある「A MAV ~」の番組を選択
④ アテネの廃墟序曲に続いて19:13ころからカツァリスが登場します

6月15日パリリサイタルの批評

先日6月15日にパリで70歳記念リサイタルが行われましたが、その批評がwebマガジンみたいなものに載っていたので日本語訳して紹介します。
元記事はこちら。
いまさらですが、去年の5月5日の満70歳の誕生日に予定されていたコンサートの延期分なので、70歳記念といってももう71歳も過ぎているのですがね・・・。

「素晴らしいCyprien Katsaris」

去る6月15日、パリのサル・ガヴォーホールにてシプリアン・カツァリスは自身の70歳を祝いました。それはまたおおよそ50年間のステージキャリアを祝うものでもありました。舞台上はまるで彼の家のような雰囲気で、観客は演奏が始まる前から熱狂していて、カツァリスはうれしそうに観客に語りかけました。彼の最初の挨拶は真面目な感じで、ウクライナ人達そしてどの戦争もそうであるようにこの馬鹿げた戦争の被害者たちの苦しみや、アートの世界でありうるであろう全てのボイコットに激しく抗議するものでありました。
音楽愛好家にとって、シプリアン・カツァリスは現存している伝説のピアニストのひとりであります。伝説のアーティストというものは、だいたいセレブの世界、オーケストラ、指揮者、室内楽のパートナーというようなところからキャリアを始めるものです。しかし、カツァリスは作品の多様な真実や豊かさによって自由に演奏でき、自由な道を進むことができるリサイタルという形を好みます。シプリアン・カツァリスにあっては、作品を継承する演奏家という自惚れはありません。その姿勢は穏やかで庶民的であり、さまざまな異なる演奏を聴かせてくれる、音楽の探検家のようです。このようなことから、彼はバッハ編曲のAntonio VivaldiやAlessandro Marcello、リスト編曲Beethovenのシンフォニーというような作品のトランスクリプションに特に惹かれたのです。トランスクリプションはまた常にピアノのテクニックを見せびらかすきっかけとなっています。穏やかに見えるカツァリスですが、彼にとっては強い欲望からバリエーションに富んだ即興演奏の爆発が起こります。さらに、Franz LisztやSigismund Thalbergの作品を演奏する時には、腕が3本も4本もあるかのような、あるいは何か指に仕掛けがあるのではないかと思わせる目が眩むようなことが起こります。これはまさしくGeorges Chiffraを連想させます。カツァリスのプログラムについてですが、彼は年代順に曲を演奏することを好みます。それは単に幅広い年代の曲を選んでいるかのように思われますが、実はそれだけではなく彼独自の目線で選んだものであり、そのことが最終的にはリサイタルに一貫性をもたらしているということがわかります。

今回のプログラム前半は
Le prélude BWV 921 de Johann Sebastian Bach,
la 48e sonate de Joseph Haydn,
le 2Klavierstück et la sérénade dans la transcription de Liszt,de Franz Schubert,
de Liszt la Czardas obstiné, arrangée par le pianiste,
quelques pièces de Chopin : valse opus 64 no 2, fantaisie-impromptu  opus 66, polonaise « héroïque »

そして第2部は昨年12月16日に没後100年を迎えたサン=サーンスに捧げられました。曲目はLucien Garban編の動物の謝肉祭のトランスクリプションにカツァリス自身が手を加えたもの、そして1908年Andre Calmettes演出による18分間ギーズ公の暗殺の映画の上演、この映画のために作曲を依頼されたのはサン=サーンスであり、これが世界初の映画音楽となったのです。

カツァリスが、他のピアニストが弾く意欲をなくしてしまうほどのヴィルトゥオーゾ・ピアニストであることは一目瞭然です。彼は両腕と1本1本の独立した驚異的な指で、ベヒシュタインを我が物のようにあやつっていました。ピアニストが表現したいと思う音声がそれぞれ均一にコントロールされており、個性的な美音が響き渡っていました。それは時に聴衆にとって驚くべきことでありました。彼はまさしく「ピアノのヒーロー」なのです。

2022年6月ベルリンコンツェルトハウスでのコンサート

先週、ベルリンコンツェルトハウスでコンサートをしたようですが、凱旋公演と記事が出ていました。
https://www.bechstein.com/die-welt-von-bechstein/neuigkeit/die-triumphale-rueckkehr-des-cyprien-katsaris/
なぜかといえば、10年前に脳梗塞になったのがこの場所でのコンサートの最中だったからです。ご存じの通り、大事には至りませんでしたが、その後の復活ぶりをみると確かに「凱旋公演」かもしれません。
当時のブログ記事はこちら

以下記事の訳です。

シプリアン・カツァリスの凱旋公演

シプリアン・カツァリスが、ベルリン・コンツェルトハウスでのリサイタルの最後に脳卒中で倒れてから10年が過ぎた。先週の金曜日、C.ベヒシュタインのピアノリサイタルの冒頭で、そのとき彼を救ってくれたベルリンの医師たちに感謝の言葉を述べた。その後の彼の演奏は、畏敬の念を抱かせるものだった。今回のコンサートは、重要なピアニストの凱旋公演である。

ベルリン・コンツェルトハウスの常連演奏家とは一線を画す、独自の即興演奏で幕を開けたカツアリス。愚かな戦争とレパートリー禁止令に対抗して、ウクライナの作曲家セルゲイ・ボルトキエヴィチとロシアの作曲家セルゲイ・ラフマニノフのテーマを即興で演奏したのである。そして、これらのテーマをカンタービレ風にセンスよく組み合わせ、ヴィルトゥオーゾ的なクライマックスを展開し、C.ベヒシュタインのコンサートグランドから、実にスリリングなソノリティを引き出したのだから驚きである。

「このグランドピアノは本当に素晴らしい」と、リハーサルのときからカツァリスは言っていた。そして実際、この楽器は、続くバッハ、ハイドン、シューベルト、リスト、ショパンの作品を、絶大な差別化、音色の美しさ、色彩感、そして広いダイナミックレンジでピアニストに展開させることを可能にした。他の多くのピアニストが平坦に音を鳴らすことを良しとするのに対し、カツァリスはリラックスした奏法で個性的な演奏を聴かせる。

後半のハイライトは、サン=サーンスの無声映画「ギーズ公の暗殺」のための音楽を演奏したことである。コンサートホールが映画館に変身し、舞台脇で陰謀渦巻くドラマチックな展開にふさわしい音楽的雰囲気を作り出した。最後に「動物の謝肉祭」はまさしく絵画的で、3回のアンコールが続いた。

シプリアン・カツァリスは、6月15日(水)にパリのサル・ガヴォーでベヒシュタイン(同じプログラム)と、6月19日(日)にトビリシ(グルジア)のトビリシ・ピアノ・フェストでベートーベンのピアノ協奏曲第3番と、さらに体験する機会がある。

ベルリンでもパリでも「ギーズ公の暗殺」は映像付きで生演奏するみたいですな。

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