ディスコグラフィー : 1980年代 TELDEC時代のカツァリス

1970年代 若き日のカツァリス(DG/EMI/Decca他)
1980年代 TELDEC時代のカツァリス
1990年代 SONY CLASSICAL 時代のカツァリス
1993年 「ショパンを弾く」のカツァリス
2000年代以降 PIANO21時代のカツァリス
2000年代 その他の録音
未発売音源・映像

1983年2月
TELEFUNKEN
(TELDEC)

《超絶技巧変奏曲集》

リスト:バッハカンタータ「泣き、悲しみ、悩み、おののき」BWV12による変奏曲
シューマン:練習曲集(ベートーヴェンSyn7の主題による自由な変奏曲形式)
ラフマニノフ:ショパンの主題による変奏曲

《管理人の独断による推薦度》B
ちょっとマニア向け。

海外での発売順では「リスト作品集」のほうが先なのだが、国内では発売順が逆転して、国内のソロ曲アルバムのデビュー盤がこれになった。前月にはEMIからハンガリー幻想曲が発売されているので、ずいぶん発売時期が遅れている。このころはまだテレフンケンレーベルから発売で日本ではキングレコードが発売していた。当初LPでのみ発売され、その後輸入盤のみCD化。国内盤CDは未発売だが、後にシューマンはSymNo.7とカップリングされCD化。また輸入盤では、この3曲にSymNo.5のカップリングだったエロイカバリエーションと組み合わせて1990年代にCD化された模様。演奏は曲のワリにはおとなしく正攻法だが、珍しいラフマニノフなどが入っておりおもしろい1枚。

1983年8月
TELEFUNKEN
(TELDEC)

ベートーヴェン(リスト編曲):交響曲第6番「田園」

《管理人の独断による推薦度》S
9曲の中でも実演で弾いたことのある曲だけに出色の出来栄え。すべてはここから始まった。

もはや人類の遺産ともいうべき前人未到の記念碑的シリーズとなったベートーベン交響曲全集のスタート。彼の幼いころの経験で第6番での始まりとなった。1980年前半は実演でもこの曲を何回か弾いた(カツァリスの記憶では10数回程度)が、企画が軌道に乗り始めてからは実演では英雄を弾くことが多くなった。ピアノはカツァリス専用オリジナル「マークアレン」を使用。これも当初発売はLPのみ。

1984年1月
TELEFUNKEN
(TELDEC)

《リストピアノ作品集》

リスト:孤独の中の神の祝福
リスト:メフィスト・ワルツ第1番
リスト:メフィスト・ワルツ第2番
リスト:メフィスト・ワルツ第3番
リスト:調のないバガデル
リスト:メフィスト・ワルツ第4番
リスト:メフィスト・ポルカ

《管理人の独断による推薦度》A
何度聞いても「孤独」は名演。

TELDEC移籍後第一弾の録音なのだが、実は国内では「変奏曲集」「田園」に続く3枚目のリリース順と順序が逆になっている。超絶技巧のカツァリスが弾くリストのレパートリーは主に晩年の作品で一般に期待されるような曲はない。しかし、現在でもかなり長期間にわたって主要なレパートリーであった「孤独の~」の消え入るような弱音の絶妙さやメフィストワルツでのちょっとしたアクセントのつけ方、テンポの揺らし方などは必聴。楽譜通りでなく結構イジリたおしていて、一見地味なアルバムだがいまにつながるカツァリスの魅力がつまったおすすめの1枚。孤独は近年あまりコンサートで弾かなくなってしまったが、メフィストワルツのソロバージョンもコンサートで弾いたことはなく貴重な音源。
1984年4月
TELDEC
ベートーヴェン(リスト編曲):交響曲第9番「合唱」

《管理人の独断による推薦度》S
オケのみならず、独唱、合唱までピアノ1台でやってしまう、どうかしている1枚。年末の風物詩第九に飽きたら是非。

ベートーヴェン交響曲シリーズ第2弾がなんと「第九」。どうやるんだろうと誰もが思うこの第九では、とんでもないことが繰り広げられている。多重録音ではないのが信じられない。もっとも、当時のレコード芸術新譜案内には「この曲の編曲はピアノ2台用だが、カツァリスは二重録音の技術によって一人で完奏している」と書かれ、翌月訂正が入った。第2弾にして、それくらいの衝撃。この録音は1984年にフランツリスト賞を受賞し、ドイツの音楽雑誌各誌の賞を総なめにした。このディスク1枚でまさに宇宙を感じることができる偉大な一枚。年末にヘタクソなオケ演奏聴くならこちらのほうが100倍良い。このレコードからTELDECレーベルになっている。ピアノはスタインウェイ。
1984年8月
TELDEC
《グリーグ抒情小品集》

グリーグ:ペールギュントより「朝」
グリーグ:抒情小曲集
グリーグ:ホルベルク組曲
グリーグ:ノルウェー舞曲第2番

《管理人の独断による推薦度》A
彼の得意レパートリーなので

最近でも好んで弾く叙情小曲集を含むグリーグ小品集。彼の「詩人」としての一面がクローズアップされた1枚。子供でも弾けるような簡単な曲におもえるこれらから魅力を引き出し、さらりと聞かせる上手さにはほんとに脱帽。叙情的な小品の上手さやはり文句なし。意外にファンも多い一枚。
1984年10月
TELDEC
ショパン:ワルツ集(全19曲)

《管理人の独断による推薦度》B
実演ほどびっくりはしないので・・・

カツァリス初のショパンはワルツ。全19曲という選曲と、第7番でのビックリ「内声えぐり」演奏などは、彼の面目躍如。隣で誰かいたずらで鍵盤を押したのではないかと思う「隠れ音符」処理。しかし、全体的には限りなく健康優良児演奏で、明るく楽しい「ワルツ」としておすすめ。とにかく明るく達者なワルツがききたいひとにもおすすめ。ここまではすべて初回LPのみの発売だったが、この録音がはじめてのLP・CDの同時発売だった。
1985年1月
TELDEC
ショパン:バラード(全曲)
ショパン:スケルツォ(全曲)

《管理人の独断による推薦度》S
発売当初はそれほど注目されていなかったがいまとなっては不朽の名盤。

20年以上たったいまでも色あせることのない「バラスケ」名盤。バラ1、バラ3の芸達者ぶりは小憎らしいくらい。明瞭、正確、力強いタッチに伸びのある美しい音、にごらず割れない和音、まさに完璧。超絶技巧を必要とされる曲でなくショパンでこのような完璧さを見せ付けられることに快感すら覚える。スーパーテクニシャンプラス健康優良児プラス詩人の一面をこれでもかというほど見せつけ、数多い同曲異演盤の中でも秀逸の出来。ブーニンブームでわいた1985年のショパン協会のレコード部門で最優秀となり、カツァリス本人は1990年にショパンコンクールの審査員をつとめ、1992年のNHKショパンを弾くへの起用へつながっていくこととなる記念碑的1枚。現在でもこれでカツァリス教に入信した人多数。ただし実演で弾いたことはバラ2以外ない。
1985年1月

TELDEC

メンデルスゾーン:ピアノ協奏曲(ピアノと弦楽のための協奏曲)イ短調
(C/W ヴァイオリン協奏曲)

ヤーノシュ・ローラ指揮フランツリスト室内管弦楽団

《管理人の独断による推薦度》B
いかんせん曲が地味すぎ

「他人が弾かないものを弾く」カツァリスの真骨頂がここに。テルデックでの初コンチェルトは、なんとメンデルスゾーンのイ短調協奏曲。ツェートマイヤーが弾くヴァイオリン協奏曲とのカップリング。意外にいい曲なのだが、いかんせん他の演奏家でろくに聞いたことがないので判断もできないが、カツァリスとしてはかなり押さえぎみで端正な演奏との印象は受ける。
1985年4月
TELDEC

《スーパーヴィルトゥオーゾ・カツァリスライブ》

リムスキーコルサコフ(シフラ編):熊蜂の飛行
シューマン:クララ・ヴィークの主題による変奏曲
シューマン:トロイメライ
シューマン(リスト編):献呈~君に捧ぐ
リスト(カツァリス編):執拗なチャルダーシュ
カツァリス:キプロスのラプソディ
リスト:ウィーンの夜会6番
モーツァルト(贋作):バターのついたパン切れ
プロコフィエフ:前奏曲第7曲
プロコフィエフ:トッカータOp11
ショパン:夜想曲第20番(遺作)
カツァリス:即興曲~アガンの彫刻による
ゴッドシャルク(カツァリス編):バンジョー
バッハ:チェンバロ協奏曲~ラルゴ

《管理人の独断による推薦度》A
熊蜂の飛行だけでも一聴の価値アリ

カツァリスの魅力はライブで一番理解できる。そんなファンのためのアルバムがこれ。75年‐80年という比較的若いときのライブで集めたアンコール集だけに、若さも目立つし、音質も決していいとはいえないが、超絶技巧、抒情詩人、健康優良児、作曲家、などいくつもの顔をみることができる。まさにエンターテイナーの要素が大爆発のアルバム。いまでもアンコールに好んで弾く、一本指のチャーミングな「バターブレッド」やゴッドシャルク「バンジョー」、リスト「執拗なチャールダシュ」などは彼の独壇場。しばらく再発売されていないため、若干入手が困難になっていて残念。1985年はLPのみの発売で、CD化されたのは1987年7月。LPには自作のキプロスのラプソディは収録されておらず、CDで初収録。
熊蜂の飛行とプロコフィエフのトッカータは1975年6月のノアンでのライブ。トロイメライ、バンジョー、バッハラルゴなどは1980年11月ミュンヘンのライブ。バターブレッド、ショパンノクターンなどは1977年のエテルナハライブ。
1985年8月
TELDEC
ベートーヴェン(リスト編曲):交響曲第7番
シューマン:練習曲集(ベートーヴェンSyn7の主題による自由な変奏曲形式)

《管理人の独断による推薦度》A

ベートーヴェン交響曲シリーズ第3弾は第7番。この第7番はリズムが命といえるほど推進力に満ちている名曲なのだが、正直言えばカツァリスのピアノといえども、これ以上テンポを上げるわけにはいかず、加速に限界があり曲の持つ勢いが伝わってこないよう。それでもところどころ信じられない技術でクリアするのだが。。。大ヒットマンガのドラマ版「のだめ」でこの曲をピアノで弾くシーンがあり急に売れ行きが良くなりわずかにあった国内在庫がまったくなくなってしまったうれしい様な悲しいようなエピソードも。カップリングのシューマンは再発。ピアノはスタインウェイ。
1985年9月
TELDEC
ベートーヴェン(リスト編曲):交響曲第3番「英雄」

《管理人の独断による推薦度》S
9曲の中ではもっともおすすめ。この実演を聞けたことは一生の宝。

いよいよ絶好調のベートーヴェン交響曲シリーズ第4弾は英雄。カツァリスいわく「スーパーソナタ」である英雄は実演でもなんども披露してくれたもので(カツァリスの記憶では50回くらい)、1980年代後半の彼のレパートリーの中心となったもの。全9曲中もっとも違和感なく「ピアノ曲」としてきけるこのシリーズおすすめの1枚。しかも演奏は、例のごとくリスト編曲にカツァリスが補筆した部分が満載。オケ演奏でこんな疾走感を味わうことは不可能なのでやはりこのような演奏をきくとピアノトランスクリプションが単なる「ゲテモノ趣味」でないということが再認識される。あまりオケをきいたことがないピアノ音楽ファンでも十分に楽しめる1枚。ピアノはベヒシュタイン。
1986年4月
TELDEC

バッハ:ピアノ協奏曲第1・3・5・6番

ヤーノシュ・ローラ指揮フランツリスト室内管弦楽団

《管理人の独断による推薦度》B
演奏は悪くないが、特に特筆すべきところもない。

いうまでもなくバッハの時代にはいまのようなピアノはなかったわけでこの曲はチェンバロ協奏曲というほうが正確。しかし、カツァリスは昨今の古楽奏法などの流行などまったく意にすることなくバッハを自分のスタイルで弾く曲としてレパートリーにしている。そんな彼の公式リリースとしてのバッハものの第1弾がこのコンチェルト4曲。いまでもたまに第3番(BWV1054)などは演奏会でも弾いている。彼の音色と軽やかなタッチは文句なくバッハに合っているうえ、いつものカツァリス節もバッハだと不思議にすんなり聞こえるので不思議。かの宇野功芳御大が絶賛してくれた1枚。
1986年7月
TELDEC
シューベルト:ピアノソナタ変ロ長調D960
ベートーヴェン:ピアノソナタ第12番「葬送」

《管理人の独断による推薦度》A
若いころのほうが落ち着いてる演奏・・・

カツァリスはショパン、リストでもなぜか晩年の作品や「死」をテーマにした曲などが好きな一面がある。シューベルトでもそうでこの遺作のソナタD960をいまでも主要なレパートリーにしているのが興味深い。そんな葬送行進曲を含むこの曲を情感たっぷりに歌いこんで見事な演奏を聞かせてくれる。彼は多彩な音色をだすことができるが本来の奥行き深い音色にはシューベルトが1番あっている。抒情派詩人カツァリスを一番よく出してくれている1枚。個人的にはTELDEC盤でのイチオシ。ベートーベンソナタはこの曲とPIANO21でライブ音源を発売した30番、さらに近年の悲愴が唯一のレパートリー。
1987年2月
TELDEC

リスト:歌曲集
ミニヨンの歌(君よ知るや)/ 高き愛 / 私は死んだ / おお愛して下さい、愛しうる限り / 静かな水蓮 / 雲雀の歌のなんという美しさ / 静かに響け、わが歌よ / すばらしいことにちがいない / ローレライ / すべての峰に安らぎがある / 嬉しくもあり / 墓穴とバラ / ペトラルカの3つのソネット

ソプラノ:マーガレット・プライス

《管理人の独断による推薦度》B

実は管理人が最近再評価しているCDがこれ。リストの歌曲というなじみないものだが、やはりピアノパートが通常の歌曲よりも難しい。録音の希望をもっていたものの、そのため半ばあきらめていたマーガレットプライスが運良くテルデックと話をしたときに、テルデックが自信満々で「うちなら大丈夫。カツァリスがいる」と話を受け、カツァリスのCDを聞いたプライスが納得したという出来すぎのようないい話が残っている。カツァリスは目立たないように伴奏をしているがやはりちょっと難しいピアノパートを見事にサラリと弾いており気持ちいい。プライスの歌も円熟の境地でなかなか。残念ながらテルデック盤ではなかなか手に入れにくい1枚。
1987年3月
TELDEC
シューマン:子供の情景
シューマン:森の情景
シューマン:音楽帳

《管理人の独断による推薦度》B

シューベルトと並んでロマン派の彼の中心レパートリーがこのシューマン。彼の音色の素晴らしさは、暖かく明るく奥が深く、なんともいえない絶妙なところにあるが、それが楽しめる1枚。一時期どうもカツァリスはシューマン全集を考えていたこともあったようだが、この約20年後にピアノ21からシューマン蝶々、アラベスク、幻想曲などが発売されており、子供の情景もライブで再録音されたが、一般には旧盤のこちらがおすすめ。ジャケットもさわやかで、カツァリス=ゲテモノの印象を覆すようなCD。ピアノはマークアレン。
1987年7月
TELDEC
ベートーヴェン(リスト編曲):交響曲第4・8番

《管理人の独断による推薦度》A
特に8番の終楽章のリスト編との違いに驚愕

ベートーヴェン交響曲シリーズ第5弾は、実際のオケ演奏では、かなり地味な扱いのこの2曲。承知の通りカツァリスはオリジナルオケスコアと比較してのリスト編曲に足りないところを補筆したりしているが。もっともそれが激しいのがこの8番。リズムなど簡略化しているところを忠実にもとにもどし、結果として、超絶技巧スーパーソナタとなって変身。とくに8番の最終楽章は「そこまでやるか」の内容で、実際録音のときには爪から血を流したというエピソードも。これもピアノはマークアレン。
1988年1月
TELDEC
シューマン:ヴァイオリンソナタ第1・2番
シューマン:お伽の絵本op113

Vn:トーマス・ツェートマイヤー

《管理人の独断による推薦度》C
ツェートマイヤーがイマイチ

当時のTELDECでイチ押しの若手バイオリニストであったツェートマイヤーを売り出すため、売れっ子だったカツァリスと組ませて録音されたというのがこのCD。ツェートマイヤーというヴァイオリニストは音が硬くきれいではない。決して下手ではないのだが、現代音楽などは向いていると思うがシューマンは・・。伴奏を務めたカツァリスのピアノの暖かい音が逆に引き立つ結果に。あまり売れなかったCDなので現在でも意外に入手困難。
1988年3月
TELDEC

メンデルスゾーン:ピアノ協奏曲第1・2番
メンデルスゾーン:華麗なるカプリッチョ

クルト・マズア指揮ライプチヒ・ゲヴァントハウス管弦楽団

《管理人の独断による推薦度》B

懲りずにまたメンデルスゾーンのコンチェルト。でも、結構いい曲かもしれない。とりたてて言うべきことのないディスクだが、唯一のセールスポイントは、メンデルスゾーンゆかりのゲヴァントハウス管弦楽団との共演ということか・・。この後、1984年のメンデルスゾーンピアノ協奏曲イ単調とカップリングで「メンデルスゾーンピアノ協奏曲集」として何回か再CD化されているので現在でも容易に手に入る。ここまでが発売時に日本ではキングレコードから発売された。
1989年1月
TELDEC
ベートーヴェン(リスト編曲):交響曲第1・2番

《管理人の独断による推薦度》B

1988年6月にテルデックとキングレコードの契約が切れたことにより、日本でのテルデック盤はここからワーナーパイオニアに移っての発売となった。(同時にそれまでのキング盤が続々と再発されることになる) その最初のリリースは、ベートーヴェン交響曲シリーズ第6弾で初期の第1・2番。ところどころハイドンのピアノソナタの雰囲気をただよわしてる。まったくトランスクリプションの違和感は無く、前作8番で見せたようなスーパーテクもあまりなく、地味にいいCD。ピアノはベヒシュタイン。これで残すは第5番「運命」のみ。
1989年5月
TELDEC
ブラームス:ピアノソナタ第3番
ブラームス:主題と変奏ニ短調
ブラームス:2つのラプソディ

《管理人の独断による推薦度》C
他のピアニストでどうぞ

カツァリスは、ある時期集中的にある作曲家をとりあげレパートリーを増やし、結果その中の何曲かが中心レパートリーとなることが多いのだが、1990年前後にとりあげていたのがこのブラームス。しかし、その後はまったく彼のレパートリーに残らず、コンサートでも一切とりあげていない。本人が不本意だったかどうかわからないが、カツァリスファン的にもあまり人気が無い一枚。演奏はカツァリスらしい技巧の切れと音色の多彩さもあるのだが、ことブラームスという作品とはなんとなく違和感があるような気がする。新しい時代のブラームスといえるほども意欲的にとりくんだわけではなさそうで、彼が弾く必然性とスリルが感じられない。いまとなっては貴重といえば貴重な1枚。
1989年8月
TELDEC
モーツァルト:ピアノソナタK309/K457
モーツァルト:幻想曲K396/397/475

《管理人の独断による推薦度》C
他のピアニストでどうぞ

カツァリス初のオールモーツァルト録音。かつてカツァリスは「モーツァルトは難しすぎる」というスーパーテクニシャンピアニストにあるまじき含蓄あることを話していたが、そのためか本格的な最初のモツ録音は慎重で、ソナタK309/457と幻想曲という地味さ。このあとソロのモーツァルトは弾かずにコンチェルト全曲にチャレンジし、PIANO21でリリースが進行中。幻想曲は最近また演奏会で取り上げるレパートリーに復活している。
1990年5月
TELDEC

ブラームス:ピアノ協奏曲第2番

エリアフ・インバル指揮フィルハーモニア管弦楽団

《管理人の独断による推薦度》C
テルデックの協奏曲録音はどれもイマイチ

かつて、シフラコンクールの決勝でこのブラームスコンチェルト2番を弾いて優勝したカツァリスはこの曲を昔から得意にしていたようだが、その後実演ではほとんど弾いていない。残念ながらこの録音では彼本来の個性があまり見られず、どことなくぎくしゃくとした伴奏との関係すら感じられる。彼の不幸は本当に、コンチェルトの共演相手に恵まれてないところか。
1990年5月
TELDEC

マーラー:大地の歌(ピアノ版)

ブリジット・ファスベンダー(Ms)/ トーマス・モーザー(T)

《管理人の独断による推薦度》B
コレクションとしてはあってもよい

ブラームス協奏曲と同時発売。マーラー自筆のピアノ版世界初録音。トランスクリプションではなく、あくまで、大地の歌のピアノ伴奏版。長い間、マーラーの自筆ピアノ版があるとされながら日の目をみなかったものを公開直後にさっそく録音した1枚。オケ版との違いも若干あるようだが、CDとしては特にマーラーファンでもない限り、そんなにおもしろくはない。なお。この録音に先立ち、同じメンバーで演奏会もしている。現在でもたまにカツァリスはこの曲を弾くこともある。
1990年6月
TELDEC
ベートーヴェン(リスト編曲):交響曲第5番「運命」
ベートーヴェン:エロイカ変奏曲

《管理人の独断による推薦度》S
グールド盤との聞き比べもぜひ

ほぼ10年かかったシリーズの完結は第5番。カツァリスが自分がシリーズを開始するまでに最も有名だったグールドの録音のあった第5番を最後にまわしたというのも意図的ではないか。全9曲を通じも違和感無く、スーパーソナタの世界に入りこみ、堪能できる名演。82年の6番と聴き比べると、カツァリスの変化もよくわかる。ピアノはスタインウェイ。
1988年4月
DG

ストラヴィンスキー:バレエ音楽「結婚」他

レナード・バーンスタイン指揮
イギリス・バッハ・フェスティバル打楽器アンサンブル

Pf:アルゲリッチ/ツィメルマン/カツァリス/フランセシュ

《管理人の独断による推薦度》C
カツァリスのCDとしては・・・

世にも不思議なCD。なんと天下のDGよりバーンスタイン指揮のストラヴィンスキー「結婚」4人のピアニスト共演でうち一人がカツァリス。初演メンバーでの録音だとか。日本での発売は1988年なのだが、実は録音は1977年の3月。1977年といえば、カツァリスはもちろんのこと、アルゲリッチもツィメルマンもそこそこまだ若手というわけで、若手メンバーをあえて起用したのだろう。