Article:1993-1996年 主にソニークラシカル盤の月評要約

Article Topページ
– レコード芸術
  - レコード芸術 新譜月評まとめ
    - 1983-1990年 主にテルデック盤の月評要約
    - 1993-1996年 主にソニークラシカル盤の月評要約
    - 2004-2023年 主にPIANO21盤の月評要約
  - レコード芸術 その他記事
月刊ショパン
その他国内雑誌・新聞記事
出版楽譜
– 海外記事

レコード芸術 1993年3月号 新譜月評
推薦盤 ショパン:ピアノソナタ全集 

1991年にテルデックからソニークラシカルに移籍した第1弾のリリースはショパンソナタ全集。珍しい1番を含んで、ショパン全作品のリリースを前提での華々しいメジャーレーベルデビュー。日本はバブル全盛期、世界的にも景気が良く、素晴らしい演奏・録音クオリティーで完全にカツァリスの時代が来たと思わせるスタート。しかし、月評は濱田氏は推薦マークも、武田砲炸裂で無印(泣)。一方、テルデック時代も推薦マークをよくつけてくれた宇野コーホー御大は共著「クラシックCDの名盤 演奏家編」(2009新版)のなかでこのCDのソナタ第2番の演奏を同曲のベスト盤と絶賛している。
ちなみに、このCD発売時はまさにNHK教育「ショパンを弾く」の放送中で、もっと大々的にそのことを宣伝しても良いと思うのだが、なぜかレッスンビデオ、模範演奏ビデオはワーナーテルデックから発売されたため、ソニークラシカルのその後のカツァリスのショパンCDの広告でも番組のことは触れられていない。

【武田氏月評】無印
  • 通常のレパートリーとしては無視されている第1番が収録されていることがこのディスクの1番の話題。
  • カツァリスの演奏意図はあくまでテクニックを披露する場としてのショパンで、第1番はそれほど面白くないが、第2・3番はこれまでに吟味されてきたこれらの作品の演奏の歴史は十分に生かされている。
  • しかし、カツァリスの演奏で物足りないのは、一言でいえば表現の振幅である。カツァリスはかなり「楽譜」の表面的な読みそのものを実現すること(自らの解釈を上乗せすることなしに)で満足しているように思われる。
【濱田氏月評】推薦
  • 第1番は珍しいが、このディスクで真先に話題にすべきことは第2番、第3番の演奏の出来栄えである。端的に言って、最良のカツァリスを聴いた思いがする。
  • 知的に構想され、気迫も充実した演奏ぶりは、まさに超一流の脂が乗ったピアニストと言いたい。
  • 音量、音質、色彩感を勘考して、低声そして隠された中声の意味をきわめて積極的に世に問うた演奏だが、ショパンの音楽の自然な流れを妨げることなく、かえって新たな魅力を溢れ出させていることが素晴らしい。
  • 第3番も実に非凡な創造的演奏といっておく。カツァリスの真価を知った。

【録音評】93点

  • レンジ感も広いし、物理的な情報量は非常に多い。
  • 芯のあるキチっとした音でありながら柔らかさがあり、ナマ音のような質感の良さにつながるクォリティを持つ。

Topに戻る

レコード芸術 1993年4月号 新譜月評
準推薦盤 モーツァルティアーナ 

ショパンソナタに続き2か月連続のリリースはこれまた名盤のモーツァルティアーナ。編曲もの、小曲が巧いカツァリスの魅力たっぷりの1枚だが、なぜか今月のレコ芸では泡沫扱いで月評は1人担当。しかも濱田氏ではなく天敵武田氏(泣) 企画ものに推薦マークを付けないお堅い評論家だとは思ってたが、それに言及しつつ、準推薦マーク止まり。。。

【武田氏月評】
  • まさに「エンターテイナー」カツァリスの面目躍如たる1枚。シリアスな表現を追求するものではないが、楽しめることは間違いない。
  • 筆者としては珍しくこうしたジャンルのアルバムを「準」としたのも演奏と企画の見事さを評価してのこと。
  • とにかく達者なのだ。ふとしたフレーズの身振りや軽い思い入れあるいは洒落たエスプリなどでカツァリスがエンターテイナーとしての資質をフルに発揮、とにかく「聴かせる」。
  • ベートーヴェンリスト(プラス・カツァリス)の交響曲と違ってテクニック的にも余裕をもってこうした表現を創っている。たんなるサロン風の音楽ではなく知的冒険が感じられる水準の高いアルバム。
【録音評】90点
  • 独特の響きを持ち、かなり効果的に取り入れている。
  • 中高音域には響きからくる独特の輝きがあり、演奏上あるいは曲想と結びついて見事な表現。

Topに戻る

レコード芸術 1993年9月号 新譜月評
準推薦盤 ショパン:24の前奏曲集 / 小品集 

ショパン第2弾は前奏曲+小品集。今回もなぜか泡沫扱いの月評は一人で、今度は武田氏ではなく濱田氏だったが、準推薦。まあ、これは仕方ないかなー。

【濱田氏月評】
  • 前作ソナタが創意ある聴きものだったからこの前奏曲集も大いに期待を込めたが、期待は満たされた部分もあれば、そうでない部分もある。
  • 第1番から、どう弾いたらよいか、思案でもしているような感じで終わってしまい、カツァリスならどう弾く?の興味がほとんど空転。
  • その後だんだんと彼らしい味も出始め第4,6番の抒情味、第11,13番あたりのしっとりした歌いくちなど傾聴させるものがある。
  • 全体を聴き終えてみれば、やはりこのピアニストらしい世界をのぞかせてくれた、とは思う。
  • 残りの1ダース以上の「珍曲集」はいかにもカツァリスらしい。こういう曲を掌中に入れて自在に音彩を紡ぎだすカツァリスは実にチャーミングである。
【録音評】90点
  • 音の輪郭感が良好で、くっきりした見事な立ち上がりのある音。

Topに戻る

レコード芸術 1994年8月号 新譜月評
無印盤 ショパン:チェロ / フランク:チェロソナタ 

80年代から90年代にかけて人気があったアイドルチェリスト、オーフラ・ハーノイとのアルバム。宣伝文句には「「ハーノイがパートナーとしてカッツァリスを選んだ」と書いてあるが・・・。RCAもいまいち確認していないのか、広告では「カッツァリス」だし、解説にはカツァリスをパリ生まれのピアニストと書いてあるし、何かと雑(笑)。
月評は室内楽部門で高橋氏がカツァリスは少し褒めるが、肝心のハーノイをボコって当然無印。

【高橋氏月評】無印
  • パートナーにカツァリスを迎えているのが目新しい。
  • カツァリスの演奏はタッチが明瞭で、音色と表情が細かく変化するので感情の動きが十分演奏に反映されている。
  • ハーノイには不満を残す。細かいニュアンスに不足し、チェロが持っている表現力を十分に発揮しているとはいいがたい。
  • (ダメ出しのあと)厳しい言い方かもしれないがこの問題を解決しないと限界を超えることは不可能だろう。
【録音評】90点
  • やや近めの距離感でチェロは捉えられ、ピアノとのバランスは適度。

Topに戻る

レコード芸術 1994年11月号 新譜月評
推薦盤 ショパン:ポロネーズ全集 / 葬送行進曲 

この月はショパン第3弾の2枚組のポロネーズ集とワグネリアーナという濃い2枚が同時リリース。しかし、この月も月評は一人で濱田氏。もはや武田氏がいても無印確定だからか(笑)。そしてこのポロネーズ集も濱田氏は安定の推薦マーク。

【濱田氏月評】推薦
  • ソナタ集がなかなかの聴きものだったこともあり、このポロネーズ全集には期待とともに耳を傾けた。
  • 複数版などを完全収録しているあたりはいかにもカツァリスらしい心配りである。
  • カツァリスの演奏は、いつもの冴えた音色と技巧に加え、気合も乗って快調そのもの。
  • ポロネーズのリズムを十分にわがものにしたうえでフレーズの造型に微妙なルバートや間の置き方にさすがの技を見せる。
  • 得意とする「中・低音部の任意な協調」も健在だが、それも昨今では自然に聴き手の胸の扉をたたいてくる。
  • 第2番、第5-7番など特に重要な作品の出来栄えも良く、座右に置くに値するポロネーズ全集であると思う。
【録音評】93点
  • いかにも今日の録音にふさわしく、周波数レンジは広いし、p~fの表現力もしっかりしている。

Topに戻る

レコード芸術 1994年11月号 新譜月評
準推薦盤 ワグネリアーナ(ワーグナー・トランスクリプションズ) 

トランスクリプション嫌いの武田氏であれば頭から煙が出たのではないかと思うファンの間でも賛否両論あったアルバム。濱田氏はやさしく準推薦マーク。

【濱田氏月評】
  • このところショパンなど標準的なレパートリーで優れた成果を見せているが、やはりときおりは図抜けたアイデア・マンぶりを示さないと気が済まないらしい。
  • こうした編曲ものを丹念に集めたのは「ワーグナーの時代」をピアノ上に表したいというカツァリスの意図だろう。
  • 演奏はカツァリスの成熟ぶりをものがたるように極めて達意の表現であり、饒舌さよりも真の雄弁さを思わせるもので、一種の格の高さを伝えて聴きごたえに富んでいる。
  • 思いのほか惹きつけられるものを覚えながら聴きとおしたアルバム。
【録音評】93点
  • 音の純度が大変に高い。
  • 透明度の高さやピュアリティを感じさせ、pとfの差も非常に大きく、やはり20ビットSBMがよく生きているといえよう。

Topに戻る

レコード芸術 1996年2月号 新譜月評
推薦盤 イタリア風バッハ

結局ショパン全集は完成せずにソニークラシカル最後のCDとなったのはバッハ。そして安定の武田氏無印、濱田氏推薦と、最後まで両者推薦マークで揃うことなく、素晴らしいCDばかりだったソニー時代も特選盤はなしという結果に。
【武田氏月評】無印
  • あらゆるフレーズで強弱を強調することにカツァリスがこだわっていることに気づくが、本来合奏曲である協奏曲なので意図は間違っていない。
  • しか、聴き手にとっては、原稿用紙の枡目に強く支配された文章を読むような硬直さを伴うものとして聞こえる。
  • 響きとしての面白さはいかにもカツァリスらしい才気が聴かれるが。
【濱田氏月評】推薦
  • 極めて精緻に、しかも生き生きと己のバッハ象を打ち出すことに成功している。
  • ヴィヴァルディにおいても終始端麗に、神経の細かさをもって歩みを運び、聴き手を飽きさせない。
  • すべてにおいて、かつてカツァリスがときおり見せた「才気走った」ところはなく、四十代半ばに差し掛かった成熟した音楽家の姿のみが現れている。
【録音評】93点
  • 音の勢いや粒立ち感、厚味やエネルギーなどをきちんと感じさせる見事なもの。

Topに戻る