Article:1983-1990年 主にテルデック盤の月評要約

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– レコード芸術
  - レコード芸術 新譜月評まとめ
    - 1983-1990年 主にテルデック盤の月評要約
    - 1993-1996年 主にソニークラシカル盤の月評要約
    - 2004-2023年 主にPIANO21盤の月評要約
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レコード芸術 1983年2月号 新譜月評
無印盤 カツァリス&オーマンディ リスト:ハンガリア協奏曲 

カツァリスの日本でのデビュー盤は下記の通り、それなりの評価だが無印スタート。同じレコ芸1983年2月号の「海外LP視聴記」コーナーではすでに海外で発売されていた田園が紹介されている。

【宇野氏月評】無印
  • 彼のテクニックは実にめざましく、音色は鈴のようであり、外見美では最高といえよう。
  • リストを弾くために生まれてきたような演奏家だが、弱音がやや小手先に聴こえる。
  • ハンガリア幻想曲はさらに見事なピアニズムで特に後半の艶やかな響きや音色美は愉悦感の極み。
  • さすらい人はいまいち味が薄く小型の演奏。
【高橋氏月評】無印
  • このレコードの強みは、オーマンディ=フィラデルフィアの起用。
  • カツァリスのタッチは粒がよく揃っており響きは明確で硬くない。
  • 決して単なるテクニシャンではなくメランコリックな情感も充分に生かしている。
  • 異色あるピアニストの登場を喜びたい。
【録音評】90点
  • 音は軽めだが明瞭度は充分。
  • ステレオの広がりはあまり広くない。

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レコード芸術 1983年4月号 新譜月評

無印盤 シプリアン・カツァリス / 超絶技巧変奏曲 

前月に続いてだが日本でのソロ盤、そしてテルデック(テレフンケン)では初の日本リリース(海外での発売順と違う)。アルバムタイトルが「超絶技巧変奏曲」というのはいかにも狙っているのだが、武田氏の批評にも書かれ・・・。両社とも判断は「保留」という批評。この内容では致し方なしか・・・。

【岩井氏月評】無印
  • 演奏技巧は達者だが、スケール、たくましさで傑出しているほどではない。
  • ソヴィエトやアメリカの一部にあるような「テクニックの申し子」といった乾いた存在ではない。
  • ロマン派のピアノ演奏でその独自性を主張し、名前を挙げていくようになるか、もっと判断材料が揃うのを待ちたい。
【武田氏月評】無印
  • このレコードの曲目は、どこかスキを狙って売り出そうといった下心もみえる。
  • だが、一応その目的はとげている。技巧的には素晴らしい。
  • 音楽はサーカスではない。今度はどんな音楽を持っているのか、を聴かせてほしい。
【録音評】95点
  • 強音時においても音のくずれは少ない。
  • 低音域もしっかりしており、中高音には冴えがみられ、明瞭度もはっきりしている。

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レコード芸術 1983年9月号 新譜月評
無印盤 ベートーヴェン(リスト編):交響曲第6番「田園」

いよいよベト交シリーズが発売になったのだが、その第一弾は田園。広告の「全米でベストセラー!」というのは本当だったようだが、「全米が泣いた!」感があって二重の涙。世界初録音という謳い文句は「全曲」が初録音であって、当時は第1楽章のみグールドの録音があった(現在はグールドも全曲盤がある)。批評内容はこの後と比較すれば好意的なようにもみえるが、当時のレコ芸でこのような「企画もの」では当然推薦マークは貰えず。岩井氏の批評では「コンサートで弾くやつ、そんなやつおらんやろー」とか(涙)、「晩年のワルターばりに」と書いているほどなので、たぶんロクに聞かずに、情報も集めずに批評を書いたのだと思う。ちなみに、1983年2月にはNHKFMでカツァリスが田園を弾いたシュビツィンゲン音楽祭のライブが放送されている。

【岩井氏月評】無印
  • さすがにコンサートにベートーヴェン・リストの第5、第6や第9を持ち出す現役のピアニストはいないようだが・・・。
  • 晩年のワルターばりにゆったりと感情豊かに歌いこんだ演奏。
  • オリジナルの田園のレコードに食傷した人にぜひ聴いてもらいたい。
【武田氏月評】無印
  • ピアノという楽器を生かしそのような表現を達成しているかが問題だが、カツァリス自身、充分に意識しており、オーケストラに対抗していない。
  • いかに困難な部分でもカツァリスは余裕をもって表現をコントロールしている。
【録音評】85点
  • 暖色系のトーンで、解像度は水準を超えず、粒立ちはベストではない。

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レコード芸術 1984年2月号 新譜月評
無印盤 カツァリス・プレイズ・リスト メフィスト・ワルツ

デビュー盤のコンチェルトからずっとリスト絡みが続くリリースとなり、カツァリス=リスト弾きのようにイメージつけられてしまったのは、やむを得ないかも。しかし、曲が地味でリスト弾きを全面に押し出すわけにもいかず、苦労のプロモーションの痕がうかがえる。岩井氏は孤独~を高評価。

【岩井氏月評】無印
  • 達者に弾きこなしているが、ときおり重厚さや迫力不足を感じさせる。
  • リスト弾きのカツァリスはむしろ孤独~のように単なる技巧を超えてピアノの表現力をいかそうとする解釈者たらんとしているのではないか。
  • 単なるテクニシャンならほかにも若い人がたくさんいるが、そうではないなら、どれだけ独自の音楽を出せるか、孤独~は将来の可能性を暗示したように思う。
【武田氏月評】無印
  • 期待感いだせ好感もてる演奏だがさめた感覚も。
  • トータルな演奏としてはまだ充分にききてを説得する域には達していない。
【録音評】90点
  • 距離感は近めだが、中高音もしっかりしていおり粒立ちも悪くないし、音もそろっている。
  • 高音域はやや不鮮明だが力が感じられる。

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レコード芸術 1984年5月号 新譜月評
無印盤 ベートーヴェン(リスト編):交響曲第9番「合唱」

ベト交シリーズ第2弾は衝撃の第九、ということで広告も見開き扱い! この前月レコ芸1984年4月号では巻頭のグラビア1ページでも登場しており、なかなか扱いが大きくなってきた売れっ子になりそうな気配だが、相変わらずの推薦マーク無・・・。
なお、レコ芸同年2月号の新譜情報ではこの第九の録音について「この曲はピアノ2台用であるが、二重録音の技術によって一人で完奏している」と間違った情報が載っていた。

【岩井氏月評】無印
  • 田園に続く2枚目だが、思っていたよりもはるかに充実した出来。
  • リストの編曲も素晴らしいが、それを弾きこなす音楽的な力と演奏技巧を両方備えている珍しいピアニスト。
  • カツァリスのベートーヴェンに対する情熱が本物でピアノ版第九も満更悪くないのではないかと思わせる。
【武田氏月評】無印
  • たしかに、カツァリスは非凡な才能の持ち主であり、この第九もそれなりにおもしろい。
【録音評】90点
  • 遠めの距離感でオケ的効果をのらったのか音像は大きめに拡がっている。

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レコード芸術 1984年9月号 新譜月評
無印盤 グリーグ:抒情小曲集

いまでもレパートリーのグリーグ抒情小曲集だが、このLPの発売時には、なぜか広告に中の1曲の「恋の曲」とサブタイトルが付けられている。おそらく洋画に日本の宣伝部が勝手なサブタイトルをつけるのと同じで、日本のキングレコードが付けたと思うのだが、ソウジャナイ感満載。この広告の中でも「世界的に注目されているカツァリスはただ単に人を驚かせるだけのキワ者ではない、という証明がこのレコードです」とあるので、なんとかシャレオツ感をつけたかったのだろうなー。ただ、残念ながら、この後40年近くたっても、同じこといわなきゃならんとは思ってもみなかったなー(泣) ある意味、キワモノであることを証明してしまってるではないか(泣x2)
批評は、岩井氏にやんわりと「歌がない」と言われているが、実はこれがカツァリスの初期応援団隊長だった石井宏氏が「カツァリスを歌下手だという日本の批評家」とさんざん攻撃し、自分たちを十字軍とまでいうことになったきっかけの一つとなる。(その後の批評でもとくに岩井氏が・・・)

【岩井氏月評】無印
  • カツァリスの構えた姿勢が、作品との一体化を妨げているものが残っているため、聴き手は満たされぬ思いを持つ。
  • カツァリスが作為なしに歌えるようになればずっと楽しめる演奏になるが、カツァリスに必要なものは、彼の内面から出てくる「歌」であろう。
  • 「ホルベアの時代から」はこのレコードで最も聴きごたえがあった。
【武田氏月評】無印
  • 抒情的な側面がよく表現されている演奏。
  • メフィストワルツでの大きな、大げさな表現はなく、小技のきいた実にスマートな演奏。
【録音評】90-95点
  • 距離感はほどよく、解像度は高い。
  • ブルー系のしっとりしたクールな色合いの音つくりはアルバム内容にマッチしている。

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レコード芸術 1984年11月号 新譜月評
無印盤 ショパン:ワルツ集(全曲)

ここからショパンが2作続く。このレコードからLPとともにCDもほぼ同時にでるようになるが、これはCDが先でLPが後。月評はLPが出た後に載った。やはり例の第7番Op.64-2の内声エグリをどう批評されるかというのが注目なのだが、案の定・・・(泣)。まあ、仕方ないかなー。

【岩井氏月評】無印
  • ワルツ第7番嬰ハ短調では、コルトー張りに内声を浮き上がらせ、内部の動きをいやでも耳につくように演奏しているが、まだ、さまになっていないというべきか、くどくて、わざとらしい。
  • つまり、グリーグでもそうだったが、カツァリスの構えた姿勢がみえみえ。
  • カツァリスが生気を取り戻すのは14番のような動きが速い曲。ショパン弾きとしては、まだこれからの人だ。
【武田氏月評】無印
  • どのようにでもドライブできるまさにハイウェイを行くショパンだ。
  • 19世紀のロマンティシズムをクリーニングしたワルツ。ただ、残念なのはクリーニングできているとはいえ、それに加えて何らかの強いアピールを創っているかどうかは疑問。
【録音評】90-95点
  • 曲趣にふさわしく明るくさっぱりしたトーンの音つくりで解像度は高い。

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レコード芸術 1985年2月号 新譜月評
無印盤 ショパン:バラード(全曲)・スケルツォ(全曲)

いまや名盤誉れ高いバラスケも発売時の月評では無印。岩井・武田両氏ともに悪くはないが・・・という内容。当時としてはルービンシュタインが最高のショパン弾きとか批評のスタンスがゴリゴリに凝り固まっていた時代なので、こういうリアクションするかしかないとは思うので、時代だなーという感想しかでてこない。

【岩井氏月評】無印
  • カツァリスはリストを弾きこなした技巧で実に正確に堂々と弾き進み、たじろぐことを知らない。
  • 一度これを聴けば技巧足らずのショパン弾きなど聴く気がしなくなるだろう。
  • スケルツォのほうがカツァリスに向いており、とりわけ第2番は歯切れよく畳み込むように仕上げられている。
  • だがゆっくり歌うテンポのところでは、カツァリスがそうしようとすればするほどショパンがカツァリスから離れ浮き上がってしまう。こういうところで聴き手を心理的に緊張させ続けるのが真のショパン弾きだ。ひと工夫する必要がある。
【武田氏月評】無印
  • ある水準を超えた演奏であることは間違いない。特にバラード第2番。
  • 非凡か平凡かを分けるとすると、カツァリスの演奏は力でその境界線を突破して非凡に至ろうとするもの。
  • カツァリスはスケールの大きなピアニストで特にテクニック、響きの作り方については特筆すべき存在だが、まだショパンの作品の中を行ったり来たりしている状態。
  • 個性的であろうとする努力は認められるが、いまひとつ感動に欠ける。これはカツァリスの感受性の問題だろうが、音楽の身振りが大きいからといってそれで聴き手が動くわけではない。そのあたりの踏ん切りがまだついていないのではないか。
  • そうした表現作りが熟練してくればこのピアニストは王座に登りつめるだろうとおもうし、その可能性はある。
【録音評】95点
  • クリアーな音で明瞭度も悪くない。迫力あるピアノ録音。

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レコード芸術 1985年2月号 新譜月評

準推薦盤 メンデルスゾーン:ピアノ協奏曲イ短調 / ヴァイオリン協奏曲ニ短調

バラスケと同じ1985年2月号には同時発売されたメンデルスゾーンのコンチェルトの月評も掲載。ご存じの通り、カツァリスのピアノのほうも、ツェートマイヤーのヴァイオリンのほうもメンデルスゾーン13歳のときの珍しい曲なのでかなりマニアックなアルバム。しかし、なんとこのレコードではじめて準推薦マークが1つ付いた。おそらく、宇野功芳御大でなければ準推薦も付かなかったに違いないw ちなみにピアノ協奏曲のほうはこれが当時初録音だった。

【宇野氏月評】
  • ピアノ協奏曲のほうは第1楽章が印象的。タッチがデリケートで小気味よく愉しい。それでが若きメンデルスゾーンにぴったり。
  • 第2楽章以下はあまり面白い音楽とはいえない。
【高橋氏月評】無印
  • ピアノ協奏曲でのカツァリスのタッチには艶があり、覇気にあふれた美しい輝き。
  • テクニックも鮮やかで爽やかな気分、タッチが明確で重くなることはない。伴奏オケはいささか荒っぽいことは否定できない。
【録音評】90点
  • 独奏のピアノの音は近すぎることはなく、オケとよく溶け込んでいる。

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レコード芸術 1985年5月号 新譜月評
無印盤 スーパー・ヴィルトゥオーゾ カツァリス・ライヴ

初期のカツァリスを有名にしたのはベト交とこのアルバムに入っているシフラ編の熊蜂の飛行。最近までよく弾いていたバンジョーも収録されており、アンコール集という感じ。こういうオムニバスのライヴアルバムにレコ芸で推薦マークが出るはずもなく、当然無印。いまだソロ曲のアルバムでは無印継続・・・。特に岩井氏にはまた「身構えて、見え見え」とか言われてるし・・・。このアルバムはこのときはLPのみが発売され、CDが出たのは1987年。

【岩井氏月評】無印
  • カツァリスはピアノの効果を重んじる熊蜂や自作即興曲で本領を発揮し、自分でアレンジして弾いているような曲ではいっそうさっそうとしている。
  • バンジョーのような曲では別項のリーガイの演奏とは比べ物にならないほど鮮烈な印象を与える。
  • しかし、瞑想的・内省的な曲ではカツァリスは身構えて演奏しているのが見え見えでゆったりした気分や味わいがまだ足りず、不満が残る。
【武田氏月評】無印
  • 全十二曲の中身はまことに変化に富んでおり、多才なエンターテイナーぶりを味わわせてくれる。
【録音評】80-85点
  • ライブらしいプレゼンスはあるが、左右にあまり拡がらず、ステレオ感はいま一つ。
  • 全体に音が中央に集まる傾向がある。

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レコード芸術 1985年9月号 新譜月評
無印盤 ベートーヴェン(リスト編):交響曲第7番 他

ベト交シリーズ第3弾は田園、第九に続き、第7番。岩井氏はそこそこ面白がってくれたのだが相変わらず無印。武田氏はさらに「もうやめたほうがいい」とまで・・・。

【岩井氏月評】無印
  • だんだんと腕をあげてきたし、自分もピアノ版のベートーヴェンに耳が慣れてきた。
  • 第2楽章はピアノ要素が漂っており、しばしオリジナルがオケ曲であることを忘れる。第3楽章はピアノで演奏するのは多少窮屈な感じ。
  • カツァリスはベートーヴェンの音楽とリストの編曲の両方をこなす力がある。
  • シンフォニーをピアノで弾くのは演奏者は満足するが聴き手はできないと思っていたが、カツァリスのおかげでその考えは修正された。不思議なピアニストが出てきた。
【武田氏月評】無印
  • いくらでもオーケストラ版を選んで聞くことができる時代で、ピアノ版がそれ以上であるとは言えない。
  • ピアノで弾くことでオーケストラ版にない魅力に触れることができるのか、カツァリスの演奏が見事であっても説得力はもたない。
  • それでもなおカツァリスがベートーヴェンの交響曲に挑み続けるのはなぜか? やめたほうがいいといえば身もフタもないが。
【録音評】CD95点
LP93点
  • ブルー系のクリスタルな音感のトーンで解像度は高い。距離感は適度で音像は大きい。

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レコード芸術 1985年10月号 新譜月評
無印盤 ベートーヴェン(リスト編):交響曲第3番「英雄」

前月に続き2か月連続のベト交シリーズのリリースで第4弾は英雄。しかし、岩井氏は「実演で聞きたいと思う人がいるだろうか」。ご存じの通り、このCDはカツァリスが実演でも多く披露し、カツァリスといえば英雄という初期のイメージを作った代表的な1枚。おりしもこの翌月にはまさにこの英雄でもって日本でソロデビュー公演を果たし、結構な話題になったのだが・・・。あげく「ベートーヴェンのシンフォニーをピアノで独奏するカツァリスの活動はコンサート活動にはなり得ない」って・・・。広告の「真のトランスクリプションの意味を世に問う」が空しくなる批評。今になって思えば、シンフォニー弾くくらい普通で、独り協奏曲とかもっと無茶苦茶やってるし。

【岩井氏月評】無印
  • 堂に入った演奏で、こんな筋の通ったピアニストが弾く英雄なら、たまに聴くのは悪くない。
  • だがピアノリサイタルに出かけてまで英雄を聴きたいと思う人がいるだろうか? 私は、たぶん多くの人たちはそうは思わない。
  • カツァリスはしっかりしたピアニストだが、ピアノ版英雄はオケ版を矮小化している。
  • ベートーヴェンのシンフォニーをピアノで独奏するカツァリスの活動はコンサート活動にはなり得ない。
【武田氏月評】無印
  • これまでの、6番、9番、7番に比べればピアノでもよく理解できる演奏。
  • カツァリスもそれをわかっているのだろうと思うが、さすがに第2楽章はピアノの限界をはがゆく思ったはずだ。ピアノでアダージョの表現はとても困難。つまりオーケストラにはかなわない。
  • カツァリスの演奏が名演であることは否定しない。しかし聴き手は補正して聞くことになるのはたしかだ。
【録音評】90点
  • 暖色系のトーンで、融けあいのいい音づくり。厚い和音強打でも混濁やゆがみは目立たず立ち上がりのいいタッチ。

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レコード芸術 1986年5月号 新譜月評
準特選盤 J.S.バッハ:ピアノ協奏曲集

ソロ盤の月評はさんざんで無印が続いているが、初の準特選盤となったのがバッハの協奏曲アルバム。やはり宇野功芳御大の推薦マークがありがたい。当時よく、グールドと比較された演奏だったが、御大はグールドよりも良いだって!

【宇野氏月評】推薦
  • 卓越した技巧の持ち主カツァリスがバッハのコンチェルトを世に問うたが特に「第3番」と「第5番」が素晴らしい。
  • 「第5番」の第1楽章、何という自在な音色変化、魅惑的なレガート奏法。こんなスタイルでモーツァルトを弾いたら最高だと思う。第2楽章もさながら別の国から響いてくる音楽のようで夢がある。
  • 「第3番」の第2楽章における瞑想的な独白、硬軟明暗の変化が激しいフィナーレ、いずれもグールドを想起させるバッハだが、この曲に関する限りカツァリスのほうに軍配を挙げたい。
【高橋氏月評】
  • カツァリスのタッチは響きがやや硬いが、フレージングを明快に浮かびあがらせる。ペダルの使用を極力抑えたスタッカート気味のタッチはチェンバロの効果を考慮に入れているのであろう。
  • カツァリスのきわめて明快で割り切った解釈は一種のさわやかさを呼び起こす。
  • 全体に左手が雄弁なのがカツァリスの特徴。
【録音評】90点
  • 残響音はあまり取り入れられていないが、特に乾きすぎた音ではなく、各パートの分離も悪くない。
  • ピアノは適度な距離感で明瞭度も悪くなく音の粒立ちも良い。

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レコード芸術 1986年8月号 新譜月評
準推薦盤 シューベルト:ピアノソナタ第21番 / ベートーヴェン:ピアノソナタ第12番

これが、とうとう岩井氏が「歌い下手」と言い切ってしまい、石井宏氏を団長とするカツァリス応援団との全面抗争に突入した記念碑的な批評www。合掌。。。
気になるのは岩井氏がベートーヴェンの演奏を「ホームブラウンド」と評するあたり、たぶんベト交のことが頭にあるのだろうが、当時の「ベートーヴェン弾き」など演奏家を何々弾きとしてカテゴリーする評論が強かったのを思い出させる。一方、武田氏は初の準推薦マークのため、アルバムとしてははじめてソロで祝・準推薦。

【岩井氏月評】無印
  • カツァリスはシューベルトを弾くのにふさわしいピアニストだろうか? 以前のショパンから推測してノーだと見当をつけた。カツァリスは努力して歌うピアニストであって、自然に歌えるピアニストではないからである。
  • 案の定、シューベルトにおけるカツァリスは歌い下手である。特に第1・2楽章は音楽の流れが途切れ、なんとも隙の多い気息奄々たる演奏になって興味をそぐ結果となった。シューベルトを弾くのは早すぎた。
  • ベートーヴェンは比較的伸び伸びと歌っている。ホームグラウンドの気安さだろう。
  • カツァリスがシューベルトを本当にこなせるときが来るとしても、それはずっと先の話であろう。
【武田氏月評】
  • 聴き手を完全に捉えてしまう名演というには今一歩。何か新しい解釈で作品に迫るという性質のものではない。
  • シューベルトでは深い諦念をたたえて内的な緊張の糸を持続し、聴き手をききこませる。
  • ベートーヴェンではスケルツォの第2楽章が見事で、第4楽章もヴィルトゥーゾ風の味わいの名演で音楽は雄大。
  • シューベルトの第2楽章は音と音の間の沈黙に語らせる技が不足して不満。
  • しかし、全体として出来栄えの水準は高い。
【録音評】90点
  • 音やせのみられないしっかりとしたトーン。

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レコード芸術 1987年3月号 新譜月評
準推薦盤 リスト:歌曲集

珍しいリストの歌曲集で声楽曲部門の月評に登場。M.プライスの歌自体はそれほど高評価ではないが、希少価値の高いアルバムとして準推薦。カツァリスにはさらっと触れるのみ。

【畑中氏月評】
  • マーガレット・プライスの歌は手堅く、端正だが情緒のたゆたいが欲しい。
  • カツァリスも意外とキマジメにつき合っていて、即興性のたのしさも見えてこない。
  • しかし、今のところ他に聴くレコードがないので、これらの名曲はこれで聴くしかあるまい。
【佐々木氏月評】
  • マーガレット・プライスは丸みのある美しい声と伸びやかな歌いぶりだが、まだ詩と曲の核心に届いていない。
  • カツァリスのピアノも美しい響きと達者な弾きぶりでリストの良さを聴かせているが、プライスと同様、曲によってはもっと深い掘り下げがほしい。
【録音評】90点
  • ピアノは中央で定位の決まりは良い。適度の距離でソロと重なるように音像を結ぶ。

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レコード芸術 1987年5月号 新譜月評
準推薦盤 シューマン:子供の情景 / 森の情景 / 音楽帳

いまでもよく弾く子供の情景を含む初のシューマン作品アルバム。なんと岩井氏が初の準推薦マークの意外な高評価。一方、武田氏は褒めているのか貶しているのかよくわからないが、無印。なかなか両名揃わないw。

【岩井氏月評】
  • リスト編曲のベートーヴェン交響曲を弾いているカツァリスとは別人。
  • これまでに出たカツァリスのショパンやシューベルトでは自然に出てくる歌がなかったが、このシューマンではまったく違う。これを最初に聴けば誰でもカツァリスを清新な抒情の表出を本領とするピアニストと考えるのではないか。
【武田氏月評】無印
  • カツァリスは才人であり、ベートーヴェンの交響曲の意義はともかくなかなかの聴きものであったことは確かだ。
  • しかしこのシューマンはそれと違うカツァリスの音楽性を楽しむことができる。
  • 子供の情景はほとんど感心して聴いた。あの超人カツァリスが見事に詩人カツァリスに変身している。
  • しかし、一方では森の情景の「宿屋」とか、音楽帳の「終わることのない悲しみ」のゆおうに無造作に行き過ぎてしまうような曲もある。カツァリスのシューマンはいまひとつだ。
【録音評】90点
  • わずかに遠めのマイクで奥に引き込み気味に定位。左右ともにタッチが明瞭に粒立ち、音像の輪郭も鮮やかで美しい。

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レコード芸術 1987年9月号 新譜月評
無印盤 ベートーヴェン(リスト編):交響曲第4番 / 第8番

ベト交シリーズ第5弾は4番と8番。英雄ですら無印の両氏の批評のスタンスが変わるはずもなく、岩井氏は「名技願望」と評し「あとに続くものがいない孤独の道」と。武田氏は相変わらずのピアノトランスクリプションを意味ないものといい、最後には「やはりオーケストラで聴きたい」と。もはや取り付く島もなし・・・涙。たしかに、8番の終楽章とかは原曲からは趣もかけ離れたものになってるしね。
しかし、この後、岩井氏は器楽曲部門の月評担当をはずれ、協奏曲部門へ異動。これがカツァリスへの最後の辛口批評となった。

【岩井氏月評】無印
  • 陸上競技や水泳競技の世界記録のように演奏技巧の向上もとどまることを知らない。カツァリスがベートーヴェンの交響曲をリストを基本としつつ手を加えて弾くのもこの「名技願望」のひとつに他ならない。
  • カツァリスが注目すべき演奏技術の持ち主であることは事実。だがカツァリスが弾いているのはあくまでピアノ版。ピアノのために構想された作品とは到底思えない。
  • それでもカツァリスは「我が道を往く」。なにゆえに? おそらくは形を変えた「名技願望」ゆえに。この道は、しかし、後に続くものがいない孤独の道であろう。
【武田氏月評】無印
  • カツァリスの場合、リスト編のベートーヴェンの交響曲をそのまま弾くのではなく、リストが不可能と判断した箇所について克服する努力を付加する。この一連のシリーズの価値はまさにそこにある。
  • ベートーヴェンの交響曲の世界をどれだけピアノで再現できるかを評価する立場と、ピアノで交響曲を弾くこと、それを商品とすることにどれだけの意味があるか疑問視する立場とでは全く評価が分かれる。
  • 筆者は後者の立場であり、これは一種の趣味の世界であるが、趣味と言ってしまえばそもそも音楽は趣味の世界。カツァリスの驚異的な才能とテクニックを賞賛せよと言われればまさにその通り。だがやはり、ベートーヴェンの交響曲はオーケストラで聴きたいと思うだけ。
【録音評】93点
  • 距離感はほどよく、芯のある強い音にとれている。解像度はとれ、粒立ちよく、立ち上がりのスピードは速く快感。
  • ソロにしてはたっぷりの音場空間をもち、音楽的広がりにふさわしい音つくり。

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レコード芸術 1988年3月号 新譜月評
無印盤 シューマン:ヴァイオリンソナタ第1・2番 / おとぎの絵本

ツェートマイヤーとのシューマンのヴァイオリンソナタ集で室内楽曲の月評に初登場。無印だが、カツァリスのピアノにはまあまあの高評価。

【門馬氏月評】無印
  • 技巧派のピアニストともいえるカツァリスは、ヴァイオリンを圧倒しそうなくらいに頑張っている。
  • ヴァイオリンはピアノに対抗しようとして粗い音をだしてしまっている。
【佐川氏月評】無印
  • ツェートマイヤーのヴァイオリンは粗削りだが、言いたいことをずばずば言っていく良さがある。
  • ヴァイオリンがこれほどのびのびと発揮できたのは、ベートーヴェンの交響曲のピアノ演奏で知られるカツァリスの練達なピアノのバックアップによるところも少なくないようだ。
【録音評】90点
  • ピアノを中央にヴァイオリンは中央より左寄りという音場構成。
  • バランスは程よくトーンはブルー系、まとまった音づくり。

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レコード芸術 1988年4月号 新譜月評
準特選盤 メンデルスゾーン:ピアノ協奏曲第1番 / 第2番 / カプリッチョ・ブリランテ

2枚目となるメンデルスゾーンの協奏曲は、バッハに続いて、コーホー御大が推薦マークで2枚目の準特選盤。

【宇野氏月評】推薦
  • メンデルスゾーンのピアノ協奏曲は音楽自体、薄味で名演が生まれにくいが、このカツァリス盤は初めて納得できるもの。
  • 音色は艶やかでカツァリスの磨かれた音を堪能できる。冴えた高音、デリケートな弱音、軽妙なリズムを基本として情感豊かに弾きあげている。
  • クレッシェンド、デクレッシェンドを波のようにつけ、アクセントを思い切り、左手を名人芸的に生かし、歌いかけの呼吸が巧い。
【高橋氏月評】
  • タッチは響きが硬質で明確だが冷たさはない。表情は美しく変化し、音楽の若々しいエネルギーを生かす武器となっている。
【録音評】93点
  • ソロは中央だが距離感は遠目に感じられる。
  • トーンは中間色だがピアノは粒立ちよく輝きがあり、オケは厚くどっしりとした響き。

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レコード芸術 1989年3月号 新譜月評
無印盤 ベートーヴェン(リスト編):交響曲第1番 / 第2番

ベト交シリーズ第6弾は一番地味な1/2番。地味だが、ピアノ版に対するアレルギーもない曲風のか、無印ながら武田氏も前回よりは大人しいw このアルバムからは器楽曲部門月評は岩井氏に代わり濱田滋郎氏へ。これが濱田氏が2021年に亡くなるまで月評では明らかにカツァリスの追い風に。
また、テルデックの日本での発売元が契約終了に伴い1988年7月からキングレコードからワーナーパイオニアに移っており、広告がテルデックテイストに変わっている。こちらのほうがなじみが深いね。

【武田氏月評】無印
  • 第1番と第2番はベートーヴェンの交響曲の中でもはっきりと18世紀のスタイルに属すると区別される作品であり、ピアノで演奏することの違和感が少ない。
  • いままでカツァリスのベートーヴェンを聴くたびに、メリットがなく、やはりオーケストラできいたほうがおもしろいという不満があったが、この1番2番には無理を感じない。
【濱田氏月評】無印
  • カツァリスのベートーヴェン交響曲全集は、まだ第5が残っているが後にまで残る立派な功績といえよう。。
  • 第1・第2は第3以下に比べずっと古典的にできているため、ピアノに移した時も「あらたにピアノソナタが増えた」という感じがする。
【録音評】93点
  • 中央に定位する音像の距離感、大きさともに適度に設定されている。
  • まるで目の前で演奏を聴いているような雰囲気に富んでいる。

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レコード芸術 1989年6月号 新譜月評
準推薦盤 ブラームス:ピアノソナタ第3番 / 主題と変奏曲 / 二つのラプソディ

結局、この1989年当時しか弾かなかったブラームスのソナタが入ったアルバム。さっそく濱田氏が準推薦にしてくれたが、武田氏は何が言いたいのかよくわからない酷評・・・涙。

【武田氏月評】無印
  • カツァリスの巨匠性はベト交で証明されおり、その意味では立派なブラームスである。
  • このアルバムにおいてもカツァリスは実に雄弁で説得力ある演奏が展開されている。
  • しかし、筆者はカツァリスの演奏に感じるのは、一種の過信ともいうべき不安で、カツァリスのはその危険を感じる。
  • 物事には裏表があって、裏があって表が存在するのに、カツァリスは表だけをみているといえば、わかってもらえるだろうか。解釈のサイズが大きすぎるような気がする。
【濱田氏月評】
  • ブラームスのソナタはゆっくりしたテンポで強弱の対比大きく、スケール豊かに開始され、フレーズひとつひとつ念入りで、音色にも変化があり、交響曲の素描のように響いてくる。
  • 恣意的ではないが、存分に個性的な演奏で、全曲にわたって思考と情感の鑿により深く彫琢されたこの演奏には独自の価値があり、魅力もある。
【録音評】93点
  • 一般的なピアノ録音より距離感がやや近めに、しかも音像の大きさがやや大きめに設定されており、目の前の演奏をほうふつさせるような明快な音場。

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レコード芸術 1989年9月号 新譜月評
準推薦盤 モーツァルト:ピアノソナタ第14番 / 第7番 / 幻想曲K.475 / K.397 / K.396

ほぼ唯一といってもよいモーツァルトのソロアルバム。武田、濱田両氏ともに準推薦マーク。武田氏はシューベルトに続き2回目の準推薦。要約しようにも相変わらずなにを言いたいのかわからない批評だが、そこそこ褒めていることだけは確かな模様w

【武田氏月評】
  • さすがのカツァリスもモーツァルトを演奏することはかなりの覚悟を要したようだが、なかなかのものである。音の生理にあっているといえばよいだろうか。
  • カツァリスのモーツァルトは演奏する側に作為がない、これはモーツァルトを個性的に演奏する場合にはさけて通ることが困難な関門である。
  • これを見事に通り抜けたカツァリスの演奏では、まさしく音のシュピーレンに徹し、それだけによってこの特異な作曲家の音楽の魅力をかなり純粋な形できかせてくれる珍しい成功例といえるだろう。
【濱田氏月評】
  • 曲順がまず彼らしく優れたもので、演奏も期待にたがわず、彼らしさを良く打ち出したものと評せよう。
  • ffからppにいたる幅が見事にコントロールされ、たいそう緻密で、力強さにも欠けていない、表現主義的なモーツァルト。
  • タッチ、アーティキュレーションに対する配慮も十分ですべてにわたって感心させられる、まことに非凡なピアニストだと思わされる。
【録音評】93点
  • 音像の距離感は適度で左右に広がりも設定され、左右両手ともに粒立ちが明瞭。

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レコード芸術 1990年6月号 新譜月評
推薦盤 ブラームス:ピアノ協奏曲第2番

この月はブラームスのコンチェルトとマーラー大地の歌は2枚同時リリース。ブラームスでは高橋氏が初の推薦マークもコーホー御大が無印と、ほんとうに両者揃わないw。

【宇野氏月評】無印
  • カツァリスのソロは冒頭から自信にあふれており、表情たっぷりに語りかけてくるので、これは、と期待したが、だんだんと平凡になってしまうのが惜しい。
  • フィナーレなどフレッシュなブラームス像を目指しているのはわかるが、音色が水っぽくなりがちである。この欠点は第3楽章にも散見される。
  • インバル指揮のオケは力いっぱいでカロリー高く、ときにうるさい感じがつきまとうのがマイナス。
【高橋氏月評】推薦
  • 遅いテンポですすめられ、カツァリスも落ち着いた情感を基調に、タッチは明確で力強いが決して重くなく豊かな表情。
  • インバルの指揮もカツァリスに劣らず表情豊かで第2楽章の官能的な魅力を引き出している。
  • カツァリスにしてもインバルにしても演奏は非常に優れているがあえていえば美しくはあってもブラームスの深さを追求しきれていない憾みが残る。これが現代のブラームスの解釈として妥当なのだといえばそれまでだが・・・。
【録音評】90点
  • 中央に適度な距離感をおいて、やや大きめに拡がるピアノの音像はややはっきりしないが、豊かな響きをもって美しく、弱奏と強奏の幅も大きい。

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レコード芸術 1990年6月号 新譜月評
準推薦盤 マーラー:大地の歌

ブラームスと同月リリースの大地の歌は声楽曲部門での月評。リスト歌曲集に続いて畑中氏が準推薦マーク。この前年1989年5月に日本の国立音楽大学ゴールでこのマーラーオリジナルのピアノ版の演奏初演が行われたそうで(ピアノはサバリッシュ)、そこから4か月後の録音がこのCD。

【畑中氏月評】
  • おそらくはこのピアノ版にカツァリスは飛びつくだろうとは思っていたが、初演から4か月後の録音とは電光石火の早業。
  • カツァリスはこれまでの仕事ぶりからいってもオーケストラのピアノ版に関して、あらゆる楽器の音色をピアノで紡ぎだす方法を確立したユニークなピアニストである。
  • ゲテモノにみえなくもないが一度でももそれに立ち会ったなら真摯な演奏に脱帽するはずで、マーラーの多彩な音色をピアノ1台というのは限界があるが、その限界の上にたって耳を傾ければピアノの中から不思議な音色が届けられるのに気づくはずだ。
【佐々木氏月評】無印
  • オーケストラ版に耳慣れているだけに、第1・3・5楽章では色彩感の不足を感じ、オケの様々な音色を求めたい思いに駆られるが、第2楽章はピアノも表現が凝縮されており好ましい。
  • ピアノのカツァリスは技巧派の奏者だけに達者な演奏を示しているが、マーラーではもっと粘りのある濃い表現を聴きたい。
【録音評】90点
  • 声はやや距離感が遠目で豊かな響きのもやもやのために音像の輪郭はやや聞き取りにくい。
  • ピアノも輪郭はあまりはっきりしないが、明るく美しく豊かな響きを大きく広げる。

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レコード芸術 1990年7月号 新譜月評
推薦盤 ベートーヴェン(リスト編):交響曲第5番「運命」 / エロイカ変奏曲

カツァリスのテルデックレーベル最後のリリースとなったのはベト交シリーズの完結編の運命。そして、最後の最後にして、濱田氏のおかげで初の推薦マーク。最後のお言葉で「ここまでやれば立派」と。ありがたい批評なのでちょっと長めに引用、要約w 一方の武田氏は相変わらずトランスクリプションを認めないスタンスでまともに批評もしてくれず。最後まで両者相容れず・・・。こうして歴史的な偉業ともいうべき、ベートーヴェン交響曲全集は計7枚のうち、推薦盤が運命のただ1枚であとは全部無印という結果に終わった。

【武田氏月評】無印
  • カツァリスのリスト編をオリジナルに近づけるために補筆してまでも完成させた演奏はその意味では見事といわざるを得ない。
  • しかし、それ自体ピアニストにはチャレンジに値することであろうが、どれだけの意味を持つことになるのかは別問題だ。簡単なはなし、オケの保続音はピアノの余韻で表現できないし、トレモロにしたら別のものになってしまう。ベートーヴェンはまさにオーケストラの保続する響きを書いたのだ。
  • エロイカ変奏曲は極めて構成的な見通しの良い演奏である。
【濱田氏月評】推薦
  • カツァリスが満を持して最後までとっておいた運命がようやく届けられた。
  • カツァリスはリスト編に飽き足らず補筆してピアノでシンフォニーを弾くという形で己の信じる最上の姿を世に問うてきた。その意気込みが最後に運命というふさわしい相手を得て、たいそう密度の高い燃焼に達することができたのは幸せと言わざるを得ない。緊張感と気迫のこもった見事な出来栄えである。
  • タッチ・ペダリングを駆使して多彩な音色効果、細心な声部の弾きわけ、アーティキュレーションの工夫、すべてにわたって練りに練り抜かれた演奏のみが持つ説得力がある。
  • 運命の仕上がり、交響曲全集に相対した彼のユニークな精進に敬意を表する意味合いで推薦の文字を贈っておきたい。「ここまでやれば立派」の一言に尽きる。
【録音評】90点
  • 距離感よく、音像の大きさ適度、定位の決まり良。
  • しっかりした芯のある骨太な音つくり、いくらか硬質なトーンは作品の性格によくマッチしている。

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