カツァリスはなぜピアノ協奏曲を独りで弾くのか

203年10月23日の浜離宮公演は驚愕のプログラムです。

ショパン:ピアノ協奏曲第1番第2楽章、第2番第2楽章
リスト:ピアノ協奏曲第2番
ベートーヴェン:ピアノ協奏曲第5番「皇帝」

これだけ見ると、どう考えても、どっかのピアニストがオケを従えての「協奏曲の夕べ」としか思えませんが、ピアノリサイタルなのです。
つまり「ピアノ協奏曲」を独りで弾く「楽団ひとり、協奏曲の夕べ」です。

これをやってくれるのは、われらがカツァリス。
分かってはいましたが、ここまで潔く独自路線をひた走ると脱帽です。世界中でこんなプログラムを組むピアニストが他にいるでしょうか。

この「独り協奏曲」ですが、もちろん独りで弾くのですから、オリジナルを編曲しています。原則ピアノパートはそのままにオケパートを追加して編曲するわけですから、すさまじいことになります。あまりに複雑なところをどう処理するかが編曲の聴きどころでもあります。今回のショパンの協奏曲はショパン自身の編曲(というよりこちらが原曲オリジナルらしい)ですが、リスト、ベートーヴェンはカツァリス自身の編曲となります。

では、なぜカツァリスはこのピアノ協奏曲を独りで弾くのでしょうか?

1.とにかく「編曲もの」が好き

正真正銘のピアノ小僧ですので、大好きなピアノでどんな曲でも弾きたい!というのは大きな理由の1つだと思います。つまり、いいと思う曲がピアノ曲ならもちろん弾くが、ピアノ曲でなければ、ピアノ曲にしてしまえ、という発想です。分かり易いといえば分かり易いです。。。
これが、ヴァイオリン曲などのソロ曲だったらありがちですが、カツァリスは交響曲やら協奏曲やらも同じ感覚でピアノ曲にしてしまうという訳です。

この発想の始まりは、20年前に完結した、20世紀のピアノ演奏史に残る金字塔「ベートーヴェン交響曲全曲(リスト編曲)」録音でしょう。これはリスト編曲でしたが、かなりのパートでカツァリスが手を加えており、カツァリス補筆完成というとんでもないものになっています。実際にカツァリスがコンサートで弾いたことがあるのは、3番英雄と6番の田園のみですが、交響曲をピアノ1台で弾くという快挙に、世界中が驚き、喝采した一方、真面目な評論家たちは眉をひそめました(いまではこういうことをしても非難されませんが、当時はバッシングがすごかったです)

その後もカツァリスは交響曲、管弦楽曲の編曲ものを定期的に弾いています。編曲者はいろいろですが、ワーグナータンホイザー序曲、ワルキューレの騎行、トリスタンとイゾルデ前奏曲と愛の死、ベートーヴェン「プロメテウス」、モーツァルト交響曲第40番、アイネクライネ、シューベルト未完成交響曲、シベリウスフィンランディアなど、その他小品ものは数えきれないくらいです。完全に、これらをピアノ曲のレパートリーと考えているということです。

2.自分で編曲するようになった

とはいえ、以前は、原則すでに出版されている編曲楽譜を集めて弾いており、弾きたい曲があっても、あの曲はいい編曲がないとか言って断念していました。これが数年前から、ヲタ仲間のマシュー・キャメロンやキャロル・ベンソンといった若手ピアニストから自身のために編曲してもらったり、とうとう自分で編曲するようになってきました。

これで一気に、まるでストッパーが無くなったかのように、好き勝手やり始めます。そもそもピアノ協奏曲の編曲といえば、2台のピアノのための編曲が普通で、1台にすることはよっぽどです。普通に考えれば「そんな必要ない」のですから。その代表格がこの浜離宮公演でも披露する、リストピアノ協奏曲第2番、ベートーヴェン皇帝です。編曲楽譜がないのなら、自分でやっちまえ!です。

3.自分ですべて弾きたい

でも、だからって、交響曲ならともかくピアノ協奏曲は、オケ伴奏で弾けば済むことじゃないか?という疑問をもつアナタ! もっともです。その通りです。オケ伴奏で弾けばよいのです。普通は。
しかし、そこがカツァリスのカツァリスたる所以です。
全部「自分で弾きたい」のです。言い換えれば、オケパートも自分で弾きたい、自分でコントロールしたい、のです。
はっきり言ってしまえば、指揮者に指図されたり、気を遣ったりするのがいやなのです。自分で作りたい音楽は全部自分で作る! となれば、ピアノ協奏曲も編曲して、独りで弾くという結論に達します。

4.誰もやってないから

天邪鬼のカツァリス。なんだかんだで、他人がやるようなものはやりたがりません。当然ながら、協奏曲のソロバージョンなんて誰もやりませんし、これで全プログラム組んでしまうなんて、まさに前代未聞です。確信犯的に組んだプログラムでしょう。

そんなわけで、なぜ協奏曲を独りで弾くのか? と尋ねられれば、以上のことをまとめて、
「なぜなら、それがカツァリスだから」
ということで納得しましょう。

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