1月13日の兵庫県立芸術文化センターでの公演が無事終わり、
先にカツァリスのメッセージを録画したのでアップしましたが、
ちょっと感想を述べたいと思います。
前半の感想は割愛して・・・。
皇帝ソロバージョン、衝撃でした。
ほんとに衝撃と言うしか・・・。
この日を迎えるまでにいろいろ思うことがあり、ちょっと不安でした。
この皇帝ソロバージョンをやることになった経緯は詳しく聞いていませんが、
前回来日公演のときに突如として決まって、その後昨年の春までの時間がない中、
かなり準備が大変だろうなと思っていたら、腱鞘炎で延期。
その後脳梗塞で今回の来日も一時は危ぶまれたほどで、この日の皇帝は初演。
もともと、ある曲をステージで初演するときはかなりナーバスになるので、
演奏自体は余裕がなくなり、あんまり楽しめたものにならないことがあるし。
そんな思いで始まった後半の皇帝・・・。
いきなり、オケとピアノのアルペジオの掛け合いからロケットスタート!
早い! すっ飛ばした!
その後のオケパートも早い早い! もう、どんどん弾き飛ばしていく!
途中1-2か所、破綻しそうになって、軌道修正とかハラハラしたものの、
ものすごい勢いで第一楽章終了。
演奏時間約17分。(普通のオケバージョンでの演奏なら20分強)
いや、もう目の前で何が起きてるのか、みな固唾を飲んで見守っている感じで、
第一楽章終わった瞬間に、みなハーッとため息。ちょっと拍手も起きたが、
カツァリスが静止して、第二楽章アダージョへ。
第二楽章は、オケパートとピアノパートのバランスが良く、
破綻しそうな場所もないので、安心して聞けました。
いや、むしろ、カツァリスもエンジンがかかってきて、たっぷりと歌い回し。
ショパンのコンチェルトソロバージョンの第二楽章のように、
ピアノ曲としてもかなり感動させてくれる仕上がり。
演奏時間約8分で、ほぼオケ版通常演奏と同じくらいでした。
そして、怒涛の第三楽章。この第三楽章、エグいです。
ピアノとオケの掛け合いで、もともと無理があるような箇所に果敢に挑んでいく。
とくに木管が上昇、弦楽器が下降、メロで掛け合いしながら、
ピアノが刻んでいく箇所など、鳥肌もの!!!
単独ピアノパートに戻ったときには、完全に余裕ぶちかますくらいに攻めまくり!
これでもかと畳み掛け、月並みな言い方ですが、
本当に腕が何本あるかわからないような異次元の演奏を繰り広げ圧巻のまま終了!
演奏時間約9分、オケ版なら11分くらいかかることもあるから、やはり早かった!
とにかく、すごかったのですが、聞き終わって思うことは、
もはや単純な感動というよりは、冒頭にも言った通り、衝撃と言うほうが近いかと。
これを聞いて、皆さんは何を感じたでしょう?
もしかしたら、やっぱオケ版と比べたら違和感あるとか、ソロでは無理があるとか、
そんな感想を持った人もいるでしょう。
しかし、そんなことはもはや超越してしまってます。
今回の演奏で私はかつてカツァリスがベートーヴェンのエロイカをひっさげて
1980年代に日本公演をやったときを思い出しました。
あのときも、何が起こるのかと聴衆が緊張感を持って見守っていて、
ものすごい演奏が舞台上で繰り広げられ、我々は喝采しました。
案の定、批評家たちは「ピアノ1台でやるのは無理がある」とか
「意味がない」とか、ひどい人は「ベートーヴェンを冒涜している」
などといって、ゲテモノ扱いをしました。
しかし、聴衆は、彼の試みを喝采し、単純に彼のベートーヴェン演奏を堪能したのです。
今回の皇帝は、あのときのエロイカ以来の Big Challenge だと思います。
曲の有名度、壮大さ、難しさ(自らの編曲!)など、下手な演奏すれば言い訳できず、
批判されるかもしれないのです。
ましてや、エロイカを演奏した時は、キッレキレだった30台だったわけで、
いまは61歳です。どうしても、昔のようにはいかない部分もあります。
そのうえ、腱鞘炎、脳梗塞という病気後、復帰して間もない中で。
普通にショパンとかシューマンを普通に弾いて復帰してくれれば、
それでももちろん喝采だったはずです。
なんといっても一時は演奏活動の継続は無理だろうと医者に言われていたのですから。
もう61歳のベテランなのですから、
いつものようにショパンを弾いて聴衆を喜ばせていれば、楽できるはずです。
でも、カツァリスは、やってくれました。
誰に何を言われようと、でもきっと聴衆を楽しませるために、
自分を追い込み、誰もやったことのない、コンチェルトソロバージョンの皇帝を初演。
第三楽章での演奏は、壮絶すぎて命を削って弾いてると思うくらいです。
カツァリスの編曲は、リスト編曲のように、ある意味まとまっていないと
感じられるころもあると思います。
要は「自分は弾ける」から、音を削りません。
その結果、原曲とは違う印象を与える部分もあるでしょう。
それで批判されることもあります。
でも、そんなことは、小さなことでした。
この壮絶な試みの前では。
また最近は自分も、カツァリスの気の多さからかプログラムが小品ばかりで
落ちつかないなと、ちょっと不満に思ったりもしてました。
すみません、謝ります。
超ド級のプログラムでした。
クラシック音楽界だって当たり前のように不況で、
ましてカツァリスは商業主義からは背を向け、独自路線を歩みつつ、
自分のレコード会社は大赤字で、1枚CDを作ろうとするたびに資金をかき集めて
演奏会のギャラをつぎ込み、それでも足りず、とうとう新譜の目途も立たない状況のに、
安易なほうに流れず、いつまでも「尖り」続けています。
繰り返しますがもう今年61歳です。昨年大病もしました。
もう少しゆっくりしてもいいのでは?と私たちは思いますが、
彼はまったく歩みを止めないでしょう。
もしかしたら、ちょっと自分でも不安になるときもあるかもしれませんが、
彼は言うでしょう。
『でも、やるんだよ』
もはや腹をくくるしかありません。我々は黙ってどこへ連れて行ってくれるのか
カツァリスに身を任せるのみです。いつかくる「その時」まで。
内館牧子ならこう書くでしょう。
『シプリアン・カツァリスは美しい』
そんなわけで、この皇帝ですが、3月には逗子と茅ヶ崎で演奏します。
残念ながら、浜離宮では演奏しません。おそらくこの2回で終わりです。
貴重な機会ですので、皆さん絶対にお聴き逃しなく。。。
とか、まじめに書いたのだが、ただの冗談いっぱい、ミニスカ大好きの
オヤジなんだよなあwww
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