日々是カツァリス2019:12月11日 カツァリス&広瀬悦子デュオ

もはや記憶の彼方に消し去ってしまった悪夢の上海遠征から1ヶ月少ししかたってない中での今年3回目の来日公演。
もともとこの12月は、このデュオが中心の予定だったのですが、来年のベートーヴェンイヤーの先取りプログラムを浜松でやるかと思えば、昨年台風でキャンセルになった豊田や茅ヶ崎では今年のフレンチプロの置き土産のように謝肉祭までやる始末。
ちょっと、いくらなんでもとっちらかりすぎてるんじゃないの?と思いつつ、まあ二人で弾くんだし、大丈夫かなと参戦。

場所は聖地、浜離宮朝日ホール。
客入り、いつものソロよりも明らかに少ない・・・。

プログラムは、来年のボンでのベートーヴェンフェスト2020での演奏予定曲と同じ。

ベートーヴェン:合唱幻想曲(ハンスフォンビューロー編曲)
ベートーヴェン:第九(リスト編曲) いずれも2台ピアノ用の編曲
前半の合唱幻想曲は広瀬悦ちゃんが1st、カツァリス2nd、後半の第九が逆になりました。

さて、合唱幻想曲は省略するとして、第九なのですが・・・。

カツァリスといえば、リスト編のベートーヴェン交響曲全集を80年代から90年代にかけて完成させ、ピアノレコード史上の偉大な金字塔を打ちたてたわけですが、当時の特に日本の批評家の酷評にも負けずやりきったその意義は、単に珍しいだけではなく、目を見張る超絶技巧はもちろん、完成した交響曲の演奏がオケ演奏には真似できない魅力に溢れていたからでした。80年代のベートーヴェン交響曲の演奏といえば、まだまだ巨匠が幅を利かせていて、フルオーケストラ編成で重厚にやるのが当たり前だった時代に、オケでは考えられないスピードで疾走感を持って作り出す新しいベト交の魅力にやられたのです。テンポだけで語るわけではありませんが、ベト交は、その時代時代において新しい時代を切り開こうとする演奏家たちが覚悟を持ってのぞみ、その結果、それからしばらくの演奏トレンドを決めてしまうような試金石となるものです。ご存知の通り、その重厚な巨匠演奏から、古楽器陣営のブリュッヘン、ガーディナーにはじまり、それを現代オケの演奏に取り入れ始め、ジンマン、ノリントンの演奏が人気に、そしてベーレンライター改訂版の使用が一気に広がって以降、真打ラトルがウィーンフィルと2000年に現代版ベト交演奏を確立したといってもいいかもしれません。その後、サロネン、パーヴォ・ヤルヴィなどもそれぞれの代名詞ともいえる演奏はベトになっています。新しいところでは、ベルリンフィルの新シェフとなった、キリル・ペトレンコがこの夏披露した第九など、もはや以前のベルリンフィルには戻らないという訣別宣言ともとれる演奏でしたし、今年出したネルソンスとウィーンフィルの演奏もそれなりの意欲が感じられるものでした。

カツァリスの演奏の話しに戻しますと、多重録音かと疑われたくらいのかつての「ひとり第九」の演奏は、オケ演奏と比べて物足りないなどと思うことなく、完全に曲の素晴らしさを表現できていたわけで、つまりなにが言いたいかというと、
「一人で演奏して、新しい時代を切り開いたことがある人が、いまさら二人で演奏する意味はあるのか」
ということです。

もちろん、1人か2人という人数だけで議論しているわけではありませんが、2人で演奏するならば、1人ではできなかった何か新しいことを見つけられなければ、いまさらやる意味はありません。
ではそれがあったかといえば、そこまで大げさではないものの、まあ、第4楽章の1人ではどうにもできないような苦しい箇所はさすがに2人になったことで楽にはなっています。さらに、ピッコロが大活躍するところ(盛り上がって途切れたあとマーチで再開するところ)では、カツァリス得意の高音コロコロ演奏で美音が際立ち、そこははっきりと2人で弾いたからこそ、という部分もありました。
しかし、全体的に言えば、特に第1・2楽章は、特に2人で弾くことによる特筆すべき効果がある部分はすくなく、実際に一方が弾いてるうちは一方が休むことが多く、それはリストの編曲がそうなっているから仕方ありませんが、そうすると二人の音色、音の大きさの違いが埋め切れないような印象が残りました。これは普段からずっと一緒に活動しているようなデュオでないとできないことかもしれません。

では、当日の演奏がつまらなかったかといえば、決してそうではなく、第九を丸ごとピアノで楽しめたという充実感はあります。特に広瀬さんはやはり上手く技術も文句ないし、どちらかといえば終始カツァリスをリードしてくれていましたし、カツァリスも大忙しの中、それに応えるだけの着実な演奏はしてくれましたが・・・。

さて、この二人の第九ですが、もうレコーディングも済ませているそうなので、来年いつかのタイミングで発売されるのでしょう。そして、本番は来年9月のボンのベートーヴェンフェストですが、間違いなく、今年のヨーロッパ音楽界のハイライトは、このフェストで行われるクルレンツィスのベートーヴェンチクルスなので、それに埋もれないようにそれまでにもっと二人で熟成させてほしいなと思います。(この後日本以外でやる機会はあるんだろうか?)
いずれにしても、今回はある意味、広瀬さんに感謝ですし、来年もよろしくお守をお願いしたいです。

ちなみに、クルレンツィスとムジカエテルナは4月13-14日にサントリーホールでベートーヴェン第7と第9を演奏しに再来日してくれます。私は、何があっても絶対に行きます。時代が変わるベト交が演奏される予感がします。

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